柿の葉っぱ
※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります
- このおはなしの目当て
- だれでも、移り変わる自然の中に、うまく適応して、たがいに助けあって生きることの喜びを、柿の葉にたくしての創作です。
- 読み聞かせのポイント
- 青葉のころの柿の葉のせりふは、元気よく、紅葉してからの柿の葉は哀調をおびたことばで話してください。柿の木の下で、子どもたちが、楽しく遊んで歌う場面がありますが、適当な節をつけてやったら、子どもたちは喜ぶのではないでしょうか。
おはなし
池のそばに、大きな柿の木がありました。
ある日のことです。
青い小さなかえるが、柿の木にとまって、ひとりごとを、いいました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ、池からとび出して、この大きな木に、のぼってきたら、すっかり、のどがかわいてしまった。ああ、水がほしいなあ」
すると、どこかで声がしました。
「かえるさん、かえるさん」
かえるは、びっくりしました。
「ぼくを、呼んだの、だあれ」
「かえるさん、かえるさん。わたしは、柿の葉っぱです」
「えっ、柿の葉っぱ」
かえるが、ヒョイと、上を見ると、頭の上の枝に、青い大きな柿の葉っぱが、ついていました。
「かえるさん。かえるさんは、水がほしいのですか」
「うん、ぼくね、ここまできたら、のどがかわいて、とても苦しいの」
「かえるさん。それならね、この葉っぱの先に、ゆうべ降った雨のしずくが、ついていますからね、それを、なめたらどうですか」
なるほど、柿の葉っぱの先に、しずくが光って見えました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。柿の葉っぱさん、ありがとう。では、そのしずくを、なめさせてください」
かえるは、柿の葉っぱに、たまっているしずくを、のませてもらいました。
そのときです。風が、だんだん、強くなり、そのうちに、ヒュー、ヒュー、ものすごい音をたてて、吹きだしました。かえるは、おどろきました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。 わあ、すごい風だあ」
ヒュー、ヒュー、ヒュー。この強い風に、柿の木は、大きく、ユラリ、ユラリ、ゆれはじめました。柿の葉っぱも、おどろきました。
「わあ、これは、これは、たいへんな大風だ。かえるさん、かえるさん、だいじょうぶですか。風に吹きとばされたら、いけませんよ」
でも、この青い小さなかえるは、いまにも、柿の葉っぱから、すべり落ちそうになりました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。ああ、ぼく、落っこちてしまうよう」
風は、もっと、もっと、強くなりました。ヒュー、ヒュー、ヒュー。吹きつけてきます。柿の葉っぱも、枝といっしょに、ゆれはじめました。
「かえるさん、かえるさん、あぶない、あぶない。さあ、この葉っぱのかげに、おはいりなさい。そら、すべり落ちないようにして、わたしのかげに、しっかり、つかまっていなさいよ」
かえるは、柿の葉っぱのかげの枝に、しっかりつかまって、しまいました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。もうだいじょうぶだ。風がいくら吹いても、ぼくには、あたらないよ」
しばらく吹きつづけた風は、もう、すっかりやんでしまいました。
かえるは、ほっと、安心しました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。ああ、よかった、助かった。葉っぱさん、ありがとう」
大きな青い柿の葉っぱは、あの強い風にも吹きとばされないで、平気でした。
「かえるさん、よかったね。かえるさんが、よろこんでくださると、わたしも、うれしいですよ」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。柿の葉っぱさん。柿の葉っぱさんのおかげを、よろこんでいるのは、ぼくだけじゃないよ」
「おや、かえるさん、ほかにも、よろこんでくれるものが、あるのですか」
青い小さなかえるは、夏のころ、人間の子どもたちが、葉っぱのしげっている柿の木のかげで、たのしく、あそんでいたことを思いだしました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。柿の葉っぱさん、夏のころでした。人間の子どもたちが、この柿の木の下でね、歌をうたいながら、たのしくあそんでいましたよ。
木かげ、葉かげ、柿の木の下で、あそんで、はねても、暑くはないよ。木かげ、葉かげ、柿の木の下で、あそんで、はねよ。みんな、みんな、おいで……ってね」
「そう、かえるさん。みんなが、よろこんでくださると、わたしは、ほんとに、うれしいんです」
柿の葉っぱの、やさしい心に、かえるも、かんしんしてしまいました。
それから、しばらくたって、秋になりました。
ときどき、つめたい風が、サラ、サラ、吹いてきます。いままで元気であった青い小さなかえるは、ときどき、寒くてふるえておりました。
ある日のことです。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。大さむ、小さむ、ブール、ブル。大さむ、小さむ、ブール、ブル」
かえるは、ふるえながら柿の木の下まできて、びっくりしました。
あの青かった葉っぱが、どれも、これも、みんな、まっかになっているではありませんか。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ、きれいだなあ。柿の葉っぱが、みんな、まっかになってしまったあ。うわあ、きれいだなあ」
そのときです。どこかで、
「かえるさん、かえるさん」
と、呼ぶものがありました。それはいつか、水をくれたり、大風のとき葉のかげで助けてくれた、あの大きな柿の葉っぱでした。
「かえるさん。つめたい風が吹くようになりましたが、お元気ですか」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。葉っぱさん、まあ、まっかな色になって、きれいになりましたねえ」
「かえるさん、わたしが、そんなにきれいに見えますか……。そうですか。わたしたちはね、みなさんが、きれいといって、よろこんでくださると、うれしいんです」
ちょうどそのときです。つめたい風が、サラ、サラ、サラ吹いてきました。
青い小さなかえるは、寒くて、ふるえてきました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ、おお寒い、寒い。では、柿の葉っぱさん、ぼくは、土の中へ、もぐりこみますよ。外にいるより、土の中の方が、あたたかですからね。柿の葉っぱさん、さようなら」
かえるは土の中へ、ゴソ ゴソ、もぐっていってしまいました。
秋も、深くなって、つめたい風が、吹きつづけました。
赤くなった大きな柿の葉っぱも、寒くて、ふるえてきました。
「おお寒い、寒い。おや、おや、ほかの葉っぱは、風に吹かれて散っていく。さあ、こんどは、わたしが、地めんに、落ちていく番になりました
と、いいながら、じっと、下を見ました。
「あ、そうだ。あの土の中に、いつかの青い小さなかえるさんがいる……。わたしは、かえるさんのいる土の上に落ちて、あたたかい、おふとんのかわりになってあげよう。そら……、そら……」
ピョイと、枝からはなれた赤い大きな柿の葉っぱは、風に吹かれながら、ヒラ、ヒラ、散って、パタリと、地めんに落ちました。
「ああ、よかった。ちょうど、かえるさんのもぐっている、土の上に落ちることができました。ほかの葉っぱさんたちにも、ここにきてもらいましょう」
かえるのもぐっている、土の上に落ちた大きな柿の葉っぱは、ほかの葉っぱを、さそいました。
「ねえ、葉っぱさんたち。みんな、ここに落ちてきてください。この土の下にね、かわいい小さなかえるさんが、いるんですよ」
柿の枝についている、赤い葉っぱたちは、
「はーい、では、いきますよ。そら……」
ピョイと、枝からはなれると、みんな、ヒラ、ヒラ、とんできて、パタリと、 かえるのもぐっている、土の上に落ちました。
たくさんの赤い柿の葉っぱが、かさなって、地めんは落ち葉で、いっぱいになりました。土の中の、青い小さなかえるは、からだが、あたたかくなってきたので、おどろきました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ、これは、あたたかだ。どうしたことだろう」
かえるが、土から頭を出そうとしたときです。
赤い大きな柿の葉っぱが、いいました。
「かえるさん、あたたかくなりましたか。かえるさんが、あたたかくなって、よろこんでくださると、わたしたちは、うれしいんです。さあ、かえるさん、柿の葉っぱのおふとんをきて、らい年あたたかい春のくるまで、ゆっくりねむってくださいね」
青い小さなかえるは、秋から冬の間、葉っぱのおふとんをきて、じっとねむっていました。