イシコロじいさん

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このおはなしの目当て
まじめに働く者が、幸福をつかみ得た喜びを味あわせたい。
読み聞かせのポイント
クマキチは、イシコロじいさんに石を見せるまでは、鯉が石ころになってしまったと思いこんでいるのですから、そのつもりで、イシコロじいさんとクマキチの対話を、はこんでください。クマキチは、いかにも、とぼけた者のように扱うとか、イシコロじいさんの金の鉱石であることを知ったときの驚きと喜びを、情感をこめて語ってください。

おはなし

 深い、深い、山おくに、おじいさんが、ひとりっきりで、住んでいました。
 はたらき者の、くまのクマキチと、なまけ者の、きつねのコンタは、このおじいさんを、イシコロじいさんと、呼んでいました。
 イシコロじいさんは、山を歩きまわっては、石を拾い集めてきます。ですから、おじいさんの、家の庭には、大きな石、小さな石が、いっぱいころがっています。
 ある日のことです。イシコロじいさんは、めがねをかけて、石ころを一つ持つと、ジーッと、見つめました。

 「やれ、やれ。この石も、だめじゃ」
 ポイと、それを投げると、また一つ石を持って、ジーッと見つめています。
 「やれ、やれ。この石も、だめじゃ」
 石ころを、持っては捨て、持っては捨てて、
 「やれ、やれ。どの石ころも、調べてみても、みんなだめじゃ」
 と、ひとりごとを、いっていました。

 そこへ、くまのクマキチが、さかなをつかまえるたもと、魚かごを持って、やってきました。
 「おじいさん、おはようございます」
 「おや、おや、クマキチ。早いのう……。朝からさかなをつかまえにいくのかい……。えらいのう」
 「おじいさんは、朝から、石ころを見ているね。やっぱり、おじいさんは、イシコロじいさんだ」
 「うん、うん。そのうちに、すばらしい石を見つけるよ……。クマキチもちょっとでも、変わった石があったら、拾ってきておくれ」
 「おじいさん、変わった石って、どんな石?」
 「おお、それはな。形の変わった石、色の変わった石、ピカピカ光る石。クマキチが、これは変わっているな、と、思った石は、拾ってきておくれ」
 「はい、はい。でもね、でもね、おじいさん。今日は、おいしいさかなを、どっさり、つかまえてきますからね」

 それから、クマキチは、川のふちにきました。
 「この川には鯉がいるぞ。さあ、すくって、つかまえよう」
 クマキチは、鯉の集まっている川の中へ、たもをザブーッと、つっこんで、サッとあげました。たもの中には、大きな鯉が一ぴき、ピチピチ、はねていました。
 「わあ、大きな鯉だ」
 クマキチは大よろこびです。その鯉を、魚かごの中に入れると、また川の中に、たもをつっこんで、大きな鯉を、すくいあげました。
 「やあ、やあ。また大きな鯉だ」
 クマキチは、すくいあげた二ひきの鯉を、魚かごの中に入れて、ふたをしっかりすると、遠くはなれた岩の方へ、さかなをさがしに、いってしまいました。

 そこへ、そっときたのは、なまけ者のきつねのコンタでした。
 コンタは、クマキチのおいていった、魚かごのそばにくると、かごのふたをあけました。
 「わあ、鯉だ、鯉だ……。クマキチのやつ、大きな鯉を二ひきつかまえたな……。よし、この鯉は、このコンタさまが、もらっていくぞ」
 コンタは、鯉の口になわを通して、ぶらさげました。
 「うん、そうだ……。鯉のかわりに、ここにある石ころを、魚かごの中へ、入れておいてやろう」
 そばにころがっていた、石ころを二つ、魚かごの中へ入れて、もと通りに、ふたをしておきました。
 「フッフッ。クマキチのやつ、まだぼくのきたことも知らずに、むこうの方で、ウロチョロしているわ……。それ、逃げろ」
 コンタは、なわに通した鯉を、二ひきぶらさげて、逃げていきました。

 しばらくして、クマキチは、魚かごのそばへ帰ってきました。
 「今日は、さかなが、さっぱり見つからん。しょうがないから、帰ることにしよう……。でも、いいや。さっきつかまえた、大きな鯉が、この魚かごの中に、入っているからな……。一ぴきは、イシコロじいさんにやって、一ぴきはぼくが、たべることにしよう」
 クマキチは、帰ろうとして、魚かごを持つと、びっくりしました。
 「おや、変だ……。かごの中が、ゴロゴロしているぞ」
 クマキチは、魚かごのふたを、あけました。
 「あっ、石ころだ……。鯉がなくなって、石ころが二つ……。これは、これは、どうしたことだ……。不思議だ……。鯉が石ころになっちゃったあ」
 クマキチは、魚かごの中の石ころを、手に持って、ジーッと見ていました。
 と、どうでしょう。その石ころは、ところどころ、ピカ、ピカ、光っているではありませんか。
 「おや、この石ころは変わってるぞ……。ピカ、ピカ光る……。変わった石ころだ……。あっ、そうだ。鯉が石ころになったんだ。だから、鯉のうろこのように、ピカ、ピカ光るんだ……。わあい、鯉が石ころになっちゃったあ。鯉が石ころになっちゃったあ」

 クマキチは、いそいで、イシコロじいさんの家へ、やってきました。
 「おじいさん、おじいさん、たいへんです」
 「おや、あわてて、クマキチ。どうした」
 「おじいさん。ぼく、大きな鯉を、二ひきつかまえました」
 「ほう、大きな鯉を二ひき。それはよかったのう」
 「それが、たいへんです……。その大きな鯉が、石ころになりました」
 「えっ、鯉が、石ころに?」
 「はい、おじいさん。その石ころが、ピカ、ピカ、光っているんです」
 クマキチは、魚かごの中から、石ころを出して、イシコロじいさんに、渡しました。
 おじいさんは、めがねをかけると、その石ころを、ジーッと見ていましたが、びっくりしたように、よろこびました。

 「おう、これは、すばらしい。これじゃ、これじゃ」
 「え、おじいさん。それが、なんですか」
 「クマキチ。わしが長い間、さがしていた石は、これじゃ」
 「おじいさん。その石ころが、なんですか」
 「うん、この石ころには、たくさんの金が、まざっている。この石から、金がとれるのだよ」
 「フーン、鯉が石ころになり、その石ころから、金がとれるのですか……」
 クマキチが、あきれた顔をしていると、どこからか、さかなを焼くにおいが、プーンと、してきました。
 「あ、おじいさん。このにおい……。さかなを焼くにおいですよ」
 クマキチは、鼻を、ヒク、ヒクさせながら、そのにおいを、かいでいました。においは、すぐ近くの、コンタの家の方から、におってきます。
 「おじいさん。このにおいは、コンタくんの家の方からにおってきますよ」
 イシコロじいさんは、なにか思いついたようです。

 「あっ、わかった。クマキチ、ほら、このにおいは、鯉を焼くにおいだよ……。コンタが、鯉を焼いているのに、ちがいない」
 「おじいさん。コンタくんが鯉を焼いているって……。では、コンタくんは、いつ鯉を、つかまえてきたのでしょう」
 「クマキチ……。コンタはな、さきほど、家を出ていって、すぐもどってきたのだよ……。すぐもどってきたコンタが、鯉をつかまえるはずはない……。いま焼いている鯉は、クマキチ、おまえがつかまえた鯉だ」
 「えっ、では、おじいさん。魚かごの中の石ころは、鯉が石ころになったのではないのですか」
 「鯉が石ころになるものか……。それはコンタが、クマキチの魚かごの中の、鯉を盗み出して、そのかわりに、石ころを入れておいたのだ」
 「へえ、その石ころが、金のまざっている、石だったのですか」
 クマキチは、コンタのいたずらに、おどろいてしまいました。イシコロじいさんは、金のまざっている石を、なでながらいいました。
 「さあ、クマキチ。この石ころの落ちていたところに、きっと金のまざっている石が、いっぱい埋まっているのに、ちがいない……。さあ、これから、コンタのところへいって、この石ころを、どこで拾ったか聞いてみよう」

 イシコロじいさんとクマキチは、コンタの家にきました。
 コンタは、あわてて、焼いていた鯉を、かくそうとしました。イシコロじいさんは、コンタをしかるように、いいました。
 「コンタ、かくしてもだめだ。おまえは、クマキチの魚かごの中から、鯉を二ひき盗んで、そのかわりに、石ころを二つ入れておいたな。どうじゃ」
 コンタは、びっくりしました。

 「わあ、ごめんなさい……。おじいさん、クマキチくん。ごめんなさい、ごめんなさい」
 「これ、コンタ。この石ころを、どこで拾ったのだ……。さあ、それをいえば、許してやる」
 「はい、おじいさん、クマキチくん。その石ころは、クマキチくんの、魚かごの、おいてあった岩かげに、落ちていたんです」
 「ほう、岩のかげに……。そうか。では、その岩のあたりには、金のまざっている石が、いっぱい埋まっているに、ちがいない」

 それから、イシコロじいさんは、クマキチと、コンタに手つだってもらって、川のふちの岩のあたりから、山の方にかけて、金のまざっている石を、たくさんとることが、できました。
 クマキチも、コンタも、とてもよく、はたらいてくれました。