てんぐ風

時間:15:49

おはなし:出村孝雄
え:工藤美咲
著書:出村孝雄
制作:Bit Beans

本動画は、昭和50年代にCBCミュージック(現CBCラジオ)にて
録音された出村孝雄の音声に、新たに音楽を制作し再編集したものです。
※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります

このおはなしの目当て
柔よく剛を制すということばがありますが、やさしい心や知恵が、すさんだ人の心をやわらげることを暗示してみました。
読み聞かせのポイント
この話に出てくるクマタロもトラキチも、力だけを自慢する無邪気な子ども、てんぐは大男であるが、間抜けのものとして扱えばおもしろくなると思います。

おはなし

 山の上に、動物の幼稚園がたちました。
 山の木を切ってつくった、美しい幼稚園でした。
 幼稚園には動物の子どもたちが、みんな、おぎょうぎよく、こしかけています。園長先生は、メー、メー、やぎの、ヤギ先生です。
 ヤギ園長先生は、白いあごひげをなでながら、にこにこです。

 「では、これから、名まえを呼びます。呼ばれたら大きな声で、ハイ、とへんじをしてください。では、呼びますよ。くまのクマタロくん」
 「ウー、ウォー」
 「いけませんねえ。ハイ、というんですよ。いいですか……。くまのクマタロくん」
 「ハーイ」
 「はい、よろしい。つぎは、とらのトラキチくん」
 「ウー、ウォー」
 「いけませんねえ。もう一度、とらのトラキチくん」
 「ハーイ」
 「はい、よろしい。つぎは、うさぎのピョンコちゃん」
 「ハーイ」
 「おや、おや。ピョンコちゃんは、じょうずに、へんじができましたね」

 そのときです。山の方から「ウォー、ウォー」と、変な声が聞こえてきました。それといっしょに、ヒュー、ヒュー、ものすごい風が吹いてきました。
 「あっ、この風は」
 と、いって、ヤギ園長先生は、首をかしげました。

 動物幼稚園の子どもたちは、さわぎだしました。
 「あ、てんぐ山のてんぐの風だあ、てんぐ風だあ」
 「そうだ、そうだ。ウォー、ウォー、といって、ヒュー、ヒュー、吹いてくるのは、てんぐ風だあ」
 たてたばかりの幼稚園が、地しんにあったように、ユラ、ユラ、ゆれはじめました。子どもたちは、声をそろえて、いいました。
 「てんぐ、てんぐ、てんぐ山の大てんぐ。 風を吹かすのやめとくれ。
 山の木は、もう切らぬ。 風を吹かすのやめとくれ」
 と、どうでしょう。風はパッとなくなりました。

 てんぐ山には、鼻の高いてんぐがいて、山の木をたくさん切ると、おこって、ウォー、ウォー、と大声をたて、ヒュー、ヒュー、風を吹かすのだそうです。
 山の動物たちは、幼稚園をつくるのに、てんぐ山の木を、たくさん切ってしまいました。それで、てんぐが、はらをたてて、風をおこしたのでしょう。

 ある日のことです。
 くまのクマタロと、とらのトラキチ、それにうさぎのピョンコちゃんは、栗をひろって歩いているうちに、このてんぐ山にきてしまいました。
 てんぐ山のてっぺんは、ふかい森になっていました。クマタロは、山の上の方を見ながらいいました。
 「トラキチくん、ピョンコちゃん。てんぐ山のてんぐは、そんなに強くないんだってさ。ただおこると、鼻のいきが風になって、吹きまくるんだと。だから、あの高い鼻を折ってやるか、低くしてやれば、風を吹かすことが、できなくなるそうだよ。」
 これを聞いて、とらのトラキチが、
 「それなら、ぼくたちの方が強いよ。てんぐの鼻を折ってやろう」
 と、いって、てんぐ山の上の方を、にらみつけました。
 うさぎのピョンコちゃんは、
 「もし、あべこべに、てんぐにやられたらどうするの、おやめなさいよ」
 と、とめようとしました。
 でも、クマタロも、トラキチも、いうことを聞きません。

 くまのクマタロは、
 「ぼくが、てんぐの鼻を折ってやる」
 と、いって、トラキチやピョンコちゃんを、あとにして、どんどん、てんぐ山のてっぺんをめざして、走っていきました。
 トラキチも、ピョンコちゃんも、そのあとについて、のぼっていきました。
 クマタロは、てんぐ山のてっぺんの、森のそばにくると、大声で呼びました。
 「こらあ、てんぐ。出てこーい。ぼくは、幼稚園でも力の強い、くまのクマタロだ。てんぐなんかにゃ負けないぞ。さあ、さあ、出てこーい」
 すると、どうでしょう。森の中で、ザワ、ザワ、音がしたかと思ったら、
 「わしは、てんぐじゃ」
 出てきたのは、鼻の高い、まっかな顔をした、てんぐでした。

 クマタロは、てんぐの前に、すすんでいきました。
 「やあ、てんぐ。このあいだは、よくも、ぼくたちの幼稚園に、てんぐ風を吹かせたな。この悪いてんぐめ。さあ、その鼻を折ってやる」
 クマタロは、てんぐの鼻に、とびかかりました。
 ところが、てんぐは、ヒョイと、からだをよけてしまいました。
 「なに、なに、くまのクマタロ。このてんぐの強さを知らないのか……。では、てんぐの強さを見せてやろう。ほら、ウォー、ウォー」
 と、どうでしょう。てんぐの鼻から、ヒュー、ヒュー、風がおこって、あっと、いうまに、クマタロは、吹きとばされてしまいました。

 そこへ、とらのトラキチが、やってきました。
 「こら、てんぐ。ぼくは、とらのトラキチだ。クマタロよりも、ぼくのほうが強いんだ。幼稚園でいちばん強いんだぞ。さあ、その鼻を折ってやる」
 トラキチも、てんぐの鼻に、とびかかりました。
 てんぐは、ヒョイと、からだをよけると、
 「うむ、こんどは、とらのトラキチか……。では、てんぐの強さを見せてやる……。ほら、ウォー、ウォー」
 声をたてたら、てんぐの鼻から、ヒューヒュー、風がおこって、トラキチも、吹きとばされてしまいました。

 くまのクマタロと、とらのトラキチが、てんぐ風に吹きとばされてしまうと、そこへ、うさぎのピョンコちゃんが、やってきました。
 「てんぐさん、こんにちは。わたしは、うさぎのピョンコちゃんというの」
 「なに、うさぎのピョンコ……。なにをしに、このてんぐ山へきたのだ」
 「てんぐさんは、てんぐ風を吹かす、強いてんぐさんでしょう。だから、その強いてんぐさんを見たくて、この山にきたの」
 すると、てんぐは、とてもうれしそうな顔をしました。

 「うん、わしは強いぞ。いまも、クマタロと、トラキチを、吹き飛ばしてやったばかりだ」
 「でも、てんぐさんは、鼻が高すぎますねえ。もっと低くすることはできないの」
 「できる、できる。くしゃみをすれば低くなるさ。でも、鼻が低くなったら、てんぐ風を吹かすことが、できなくなるからな。くしゃみは、ごめんだ」
 耳の長い、ピョンコちゃんは、にっこり笑いました。ピョンコちゃんは、
 「そう、くしゃみをすると、鼻が低くなるのね。鼻が低くなると、てんぐ風が吹かないのね」
 と、いいながら、てんぐに近づいていきました。

 ピョンコちゃんは、“そうだ。てんぐの鼻を、くすぐってやろう。くすぐってやれば、くしゃみをする。くしゃみをすれば、鼻が低くなる。鼻が低くなれば、てんぐ風は吹かないのだ……”と、考えました。
 長い耳をしたうさぎのピョンコちゃんは、その長い耳で、てんぐの鼻を、クチュ、クチュ、クチュ、くすぐりました。
 鼻をくすぐられたてんぐは、大きなくしゃみをしました。てんぐは、あわてました。
 「あ、くしゃみをすると、鼻が低くなる……。ああ、くしゃみが出る……。ハハハ、ハクション……。ハハハ、ハクション」
 と、どうでしょう。てんぐの鼻は、ぐんぐん、低くなってしまいました。

 てんぐは、
 「ウォー、ウォー」
 と、大声をたてましたが、てんぐ風を吹かすことが、できません。くしゃみをしたら、鼻が低くなったばかりか、まっかな顔も、色がさめて、やさしい人間の顔になってしまいました。

 それから、てんぐ山のてんぐは、くまのクマタロ、とらのトラキチ、うさぎのピョンコちゃんといっしょに、幼稚園へきました。
 てんぐ山の木でつくったりっぱな幼稚園で、動物の子どもたちと、なかよく遊んだというお話です。