ふしぎな卵

ふしぎな卵
時間:13:46

おはなし:出村孝雄
え:長谷部はるか
著書:出村孝雄
制作:Bit Beans

本動画は、昭和50年代にCBCミュージック(現CBCラジオ)にて
録音された出村孝雄の音声に、新たに音楽を制作し再編集したものです。
※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります

このおはなしの目当て
とかく、無知であると、いろいろな失敗を招くことを知らせたい。また、物ごとを、はじめて経験するときの喜びも感じとらせたい。
読み聞かせのポイント
ピンポン玉が、ころがるところ、キリン先生がそれを追っかける場面は軽快にやってください。ここに出てくるキジは、愛情をこめて卵をあたためている母鳥として、そのやさしさを言葉で表現してください。

おはなし

 お山の、お山の、山道を、首の長いきりんの、キリン先生が、大きな袋をしょって、テック、テック、歩いていました。
 キリン先生は、 山のてっぺんの、大きな杉の木の下までくると、
 「やれ、やれ、どっこいしょ」
 と、腰をおろしました。

 「おお、疲れた。ここで、ひと休みすることにしよう」
 キリン先生は、しょっていた大きな袋を、下におろすと、袋の中をのぞきこみました。
 「今日は、山の子どもたちに、とてもめずらしい物を、買ってきたぞ」
 キリン先生は、袋の中から、大きな箱を、とり出しました。

 「これだ。この箱の中……。子どもたちは、めずらしがることだろうな……。よし、箱のふたをあけてみよう」
 キリン先生は、箱のふたをあけてみました。中にはいっているのは、ピンポンの道具でした。
 ネットにラケット。それから、小さなセルロイドの、ピンポン玉です。
 キリン先生は、ピンポン玉を、手のひらにのせました。

 「ほ、ほう。このピンポン玉は、鳥の卵みたいだな……。山の子どもたちは、ピンポン玉を、見たことも、ピンポンで、遊んだこともない。きっと驚くことだろう」
 キリン先生は、ピンポン玉を、いじっていました。
 「ほ、ほう。このピンポン玉は、よくはずむだろうな。一どためしてみよう……。ほら、ほら……」
 カーンと、ピンポン玉を地面に、ぶっつけてみました。
 ところが、たいへんなことになりました。

 キリン先生は、ピンポン玉を、うけそこなって、しまったのです。
 ピンポン玉は、山の上から、コロロン、コロロン、コロロン、コンと、ころがっていって、しまいました。
 キリン先生は、ピンポン玉のあとを、おっかけました。
 「あ、ピンポン、ピンポン、ピンポン玉あ。ピンポン、ピンポン、ピンポン玉あ」
 と、呼びながら、おっかけましたが、ピンポン玉は、どこへいったか、わかりません。

 キリン先生は、やぶの中を、さがしました。やぶの中にもありません。森の中をさがしましたが、ありません。あっちこっちを、さがしまわりましたが、 ピンポン玉は、みつかりません。キリン先生は、がっかりしました。
 「ああ、せっかく、山の子どもたちに、ピンポンの道具を、買ってきたのに、 ピンポン玉がなくては、遊ぶことができない。困ったなあ」

 ちょうど、そのころです。
 さるのモンタが、山のふもとから、坂道を、のぼってきました。
 モンタは、大きなしいの木の下で、ヒョイと、立ちどまりました。
 「おや、これは、なんだろう」
 しいの木の根もとに、白い小さな卵のようなものが、落ちていました。モンタは、それが、キリン先生のさがしている、ピンポン玉とは知りません。
 「おや、小さな白い玉。これは、いったいなんだろう」
 モンタは、ピンポン玉を、拾ってみました。
 「あ、軽いなあ。これは、なんだろう」
 モンタは、ジーッと、考えました。
 「これは、なにかの卵にちがいない。にわとりの卵かな……。ちがう。にわとりの卵は、もっと大きいぞ。うずらの卵かな……。ちがう。うずらの卵は、もっと小さいぞ。そうだ、この卵は、きれいな小鳥の卵にちがいない」
 モンタは、ピンポン玉を、美しい小鳥の卵と、思いこんでしまいました。
 「そうだ。卵を羽の下で、あたためると、卵が割れて、小鳥が生まれるんだ……。でも、このぼくには、羽がないから困ったな……。そうだ、キジさんにたのんで、キジさんの羽で、この卵を、あたためてもらおう」

 それから、さるのモンタは、キジのところへ、いきました。
 「キジさん、キジさん」
 キジは、きれいな羽を、バタ、バタさせながら、出てきました。
 「おや、モンタさん。いらっしゃい」
 「キジさん。この卵、なんの卵か、知ってる?」
 「まあ、白いきれいな卵ね……。さあ、なんの卵でしょう。わたし、こんな卵、知らないわ」
 「キジさん。この卵、きっと、美しい小鳥の、卵だと思うんだ……。だって、こんなに白くて、きれいだもの……。ねえ、キジさん。それで、あなたにおねがいが、あるんだ」
 「おや、それは、どんなこと?」
 「キジさん。あなたの羽で、この卵をあたためてほしいんだ......。きっと、美しい小鳥が、生まれるよ」
 「まあ、わたしの羽で……。ちょうどいいわ。わたしの卵と一しょに、あたためてあげましょう」
 とうとう、キジが、キジの卵といっしょに、ピンポン玉を、あたためることになりました。

 次の日です。モンタは、キジのところへ、いきました。
 「キジさん、キジさん。美しい小鳥は、まだ生まれないかねえ」
 「まだ、まだ、まだですよ」

 次の日、またモンタは、キジのところへ、いきました。
 「キジさん、キジさん。美しい小鳥は、まだ生まれないの?」
 「まだ、まだ、まだですよ」

 毎日、毎日、モンタは、キジのところに、やってきました。
 「キジさん、キジさん。美しい小鳥は、まだですか」
 「まだ、まだ、まだですよ」

 ある日、モンタは、いつものように、キジのところにきました。
 と、どうでしよう。キジの羽の下で、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、声がしています。
 「あっ、キジさん。きれいな小鳥が生まれたの?」
 すると、キジは、羽をふくらませて、いいました。
 「モンタさん。わたしの産んだ卵は、今朝、みんなひなになって、こんなに元気に、ないています……。でも、あなたの持ってきた白い卵は、まだ卵のままですよ」
 「えっ、あの卵からは、まだひなは生まれないって……。もう、待ちきれない。では卵を返しておくれよ」
 モンタは、キジの羽の下の、ピンポン玉を、返してもらいました。

 さるのモンタは、ピンポン玉を持って、ジーッと、見ていました。
 「このきれいな白い卵。どうして、ひなにならないのかなあ。よし、もうこんな卵、地面にぶっつけて、割ってやろう」
 モンタは、ピンポン玉を持って、高くふりあげました。

 「よし、こんな卵、地面にぶっつけるぞ……。そら、そら、そーら。えいっ」
 地面にぶっつけると、ピンポン玉は、カーン、コーン、音を立てて、高くはずみました。モンタは、びっくりしました。
 「わあ、この卵、高くとびあがるぞ......。はあて、なんの卵だろう」
 「はあてな、この卵。地面にぶっつけても割れないし、カーン、コーンと、高くとびあがる。これはふしぎな卵だ……。なんの卵だろう……。あっ、そうだ。キリン先生のところへいって、聞いてみよう」
 さるのモンタは、キリン先生のところへいきました。ちょうど、キリン先生が、ピンポンの道具を、山の子どもたちに見せているところでした。
 「ほら、これがピンポンさ……。机の上に、ネットを張ってこのラケットでピンポン玉を、ポーン、ポンと、うちあうのだよ……。とても楽しい遊びだよ。だのに、そのピンポン玉を、なくしてしまったのさ。残念なことをしたよ」
 そこへ、モンタが、やってきました。

 「キリン先生、教えてください......。この卵は、なんの卵でしょう。キジさんの羽で、あたためてもらっても、ひなになりません」
 モンタが持ってきたのは、キリン先生がなくした、ピンポン玉でした。
 キリン先生は、長い首をふりながら、大よろこびです。
 「モンタくん。これは、わたしの落としたピンポン玉だ。ああ、よかった。ピンポン玉が、返った。モンタくん、どうもありがとう」

 山の子どもたちは、キリン先生から、ピンポンの遊びかたを、教えてもらって、楽しく遊んだことでしょうね。