花火

時間:13:45

おはなし:出村孝雄
え:工藤美咲
著書:出村孝雄
制作:Bit Beans

本動画は、昭和50年代にCBCミュージック(現CBCラジオ)にて
録音された出村孝雄の音声に、新たに音楽を制作し再編集したものです。
※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります

このおはなしの目当て
美しい花火も、まちがうと、人にけがをさせることもある。そんなヒントから創作しました。心のやさしい子どもが、危急なばあい、花火をうって助かる痛快さを味わっていただきたいと思います。
読み聞かせのポイント
話に出てくるおおかみは、憎いけれども、無知なおおかみです。うち殺すのはかわいそうなので、最後に、らんぼうはしないと、約束をさせました。ヤギノおじいさん、ウサキチとピョンタ、それぞれに、やさしい豊かな愛情の持ち主であることを心して読んでください。

おはなし

 ピョン、ピョン、ピョン。うさぎのウサキチと、ピョンタが、山道を歩いていました。
 よく晴れた秋の日なのに、長い道を歩いて、つかれてしまいました。
 「ああ、つかれた。この木かげで休むことにしよう」
 ウサキチも、ピョンタも、大きな木の根もとに、すわってしまいました。すると、どこからか、変な声が聞こえてきました。
 「おや、なんだろう、あの声」
 ウサキチも、ピョンタも、耳をピーンと、立てました。
 声は、だんだん近づいてきます。
 「エンヤラヤー、エンヤラヤー……」
 「あっ、あの声。この坂の下の方で聞こえるね」

 しばらくすると、坂の下から上がってきたのは、メー、メーやぎの、ヤギノおじいさんでした。ヤギノおじいさんが、大きな車に、なにかいっぱい積んで、上がってきました。
 「あっ、ヤギノおじいさんだ。ヤギノおじいさん、こんにちは……」
 「おう、ウサキチちゃんに、ピョンタちゃん。ここは、えらい坂道だのう」
 「ヤギノおじいさん。おじいさんは汗びっしょりだね」
 「ああ、この車が、とても重いのだよ。汗はタラタラ、つかれはでるし……。でも、この山のてっぺんまでいけば、もうあとは楽だからね。いま、力をいっぱい出して、やっと、ここまで上がってきたのだよ。だが、これから山のてっぺんまでが、たいへんだよ」
 ヤギノおじいさんは、手ぬぐいで顔の汗をふきました。

 そこで、ウサキチとピョンタは、そうだんをしました。
 「ウサキチ君、ヤギノおじいさんの、おてつだいをしてやろうか」
 「うん、ぼくたちが、あの車をおしてやろう」
 ウサキチとピョンタは、おじいさんの車を、おしてやることにしました。

 ヤギノおじいさんが、車をひっぱりました。
 「エンヤラヤ、エンヤラヤ」
 ウサキチとピョンタが、車のあとおしをしました。
 「ホラ、エンヤラヤ、エンヤラヤ」
 車は、ガラカラ、音をたてて動きはじめました。

 とうとう、車は山のてっぺんにつきました。ヤギノおじいさんは、大よろこびです。
 「やあ、ありがとう、ありがとう。ウサキチちゃんと、ピョンタちゃんのおかげで、この山のてっぺんまでくることができた。あとは、下り坂だからな。力を出さなくても、車はおりていく...。いや、ほんとにどうもありがとう」
 ウサキチとピョンタは、にこにこしながら、いいました。
 「ピョンタ君、おじいさんが、よろこんでくれて、よかったねえ」
 「うん、ぼくたち、いいことをしたねえ」
 ヤギノおじいさんは、美しい絵のかいてある細長いぼうのようなものを、くれました。
 「さあ、ウサキチちゃん、ピョンタちゃん。おてつだいをしてくれたお礼に、これをあげよう」
 「おや、おじいさん。これ、なあに?」
 「花火だよ。打ち上げ花火だよ」
 「えっ、花火」
 「うん、この筒のさきに、火をつけるとね、シュシュシュッ、ポーン……。それは美しい花火なんだよ。さあ、この花火をあげよう」
 ウサキチとピョンタは、ヤギノおじいさんから、花火を一本ずつもらいました。
 ウサキチもピョンタも、大よろこびです。
 「おじいさん、ありがとう」
 「はい、はい。あっそうだ。花火に火をつけるのには、マッチがいる。マッチもあげよう。それからね、火をつけるとき気をつけるんだよ。この花火を人のいる方に向けると、花火の火がとんでいって、大やけどをさせることがあるからね。花火は、いつも、空の方を向けるんだよ。わかったね」
 ヤギノおじいさんは、また、車をひいて山道をおりていきました。

 ウサキチもピョンタも、花火をもらって、おどりあがって、よろこびました。
 「ピョンタ君。この山のてっぺんで、ポーンと、花火をあげようね」
 「うん、この花火は、空でパーンと開いて、花のように美しくなるんだよね」
 そのときです。どこかで声が聞こえました。
 「こらっ、こら、こらっ」
 「あっ、あの声は、だれだろう」
 声は、だんだん近づいてきました。
 「こらっ、こら、こらっ」
 ウサキチとピョンタは、びっくりしました。やぶの中から、おおかみが、出てきました。

 「あっ、おおかみ」
 「こら、こら、子うさぎたち。このおおかみさまに見つかったら、もうおしまいだ。さあ、かみついてやる」
 「わあ、こわい、こわい」
 ウサキチもピョンタも、ピョン、ピョン、ピョン、逃げだしました。

 「なあに、こんな子うさぎども、逃がすものか」
 おおかみは、どんどん、追っかけてきます。
 「わあ、こわい、こわい、おおかみだあ」
 ウサキチもピョンタも、いっしょうけんめい逃げました。
 「さあ、子うさぎども、つかまえて、かみついてやる」
 おおかみはすぐそばまで追っかけてきます。ところが、ウサキチもピョンタも、こまったことになりました。高いがけの上まで、きてしまったのです。

 「ああ、どうしよう。このがけ、もう逃げることができないよ」
 おおかみは、すぐ近くまで、やってきました。
 「ヘッ、ヘッ、ヘッ。どうじゃ、もう逃げられないぞ。さあ、つかまえてやるぞ、かみついてやるぞ」
 おおかみは、大きな口をあけて、とびかかろうとしています。

 このときです。ウサキチは、がけの下をみて、
 「おやっ」
 と、声をたてました。ピョンタも、
 「あっ、これはよいところがある。ここにあながあるよ」
 と、いいました。それは、がけのそばに、あなのあるのを見つけたのです。ちょうど、ウサキチやピョンタが、はいれるくらいのあなでした。
 「うん、早くこのあなの中に、はいってしまおう」
 ウサキチとピョンタは、そのあなの中に、もぐりこみました。

 おおかみは、あなの外に立って、
 「こら、こら、子うさぎたち。あなの中にかくれてもだめだぞ。このあなを大きく掘って、お前たちをつかまえてやるぞ」
 おおかみは、あなを掘りはじめました。
 あなは、だんだん、大きくなっていきます。
 あなの中で、ウサキチもピョンタも、こわくてふるえていました。
 「ピョンタくん、どうしよう。きっと、おおかみがこのあなの中に、はいってくるよ。はいってきたら、もう、おしまいだ。ぼくたち、かみつかれてしまうよ」

 すると、ピョンタが、耳をピーンと立てました。
 「ウサキチくん、よいことがあるよ」
 「よいことってなにさ」
 「ほら、ぼくたち、ヤギノおじいさんにもらった花火がある。この花火に火をつけると、ポーンと、火がとび出るんだよ。だから、あのおおかみを、この花火でうってやろう」
 「うん、ぼくたちうさぎにかみつく、わるいおおかみだものね。よし、花火で、おおかみを、うってやろう」
 ウサキチとピョンタは、おおかみのはいってくるのを、待ちました。

 そのことを知らないおおかみは、あなを大きくして、中にはいってきました。
「さあ、子うさぎども、もうおしまいだ。このとおり、おおかみさまは、あなの中にはいれたんだぞ。さあ、かみついてやる」
 おおかみは、ギョロリと、目を光らせて、ウサキチとピョンタに近づいてきました。
 このとき、ウサキチとピョンタは、一ぽんの花火に火をつけました。
 花火は、シュー、シュー、と、音をたてました。

 おおかみは、目を、パチクリさせました。
 「おや、子うさぎども、暗くなったので、火をつけたな。これは、ありがたい。 明るくなった。さあ、かみつくぞ」
 目を光らせ、大きな口をあけて、おおかみが、とびかかろうとしたときです。
 花火は、シュ、シュー、ポン、と、大きな音をたてて、おおかみの顔にあたりました。
 「いたい、いたい……」
 と、さけびながら、あなからとび出したおおかみは、顔にもからだにも、大やけどをして、歩くことができません。

 山の悪者、あばれ者のおおかみは、らんぼうをやめることを、ウサキチとピョンタに、やくそくしました。
 その晩、山の動物たちは、みんな山のてっぺんに、集まってきました。ウサキチとピョンタは、ヤギノおじいさんからもらった、もう一本の花火を、うちあげました。
 花火は、まっくらな空に、花のように開きました。それは、それは、美しい花火でした。