さるまねのサルキチ

さるまねのサルキチ
時間:13:36

おはなし:出村孝雄
え:佐藤由吾
著書:出村孝雄
制作:Bit Beans

本動画は、昭和50年代にCBCミュージック(現CBCラジオ)にて
録音された出村孝雄の音声に、新たに音楽を制作し再編集したものです。
※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります

このおはなしの目当て
奇抜なことは、ひとめをひくけれども、その人に調和がとれないと、むしろ滑けいになる。きざな格好だけをつけていばることのむなしさを暗示してみた。
読み聞かせのポイント
この童話の中に猿にちなんだ童謡を三つ出しましたが、ご存じの歌ならば、なんでもよいと思います。軽く歌ってやってください。外国の猿が、日本語で話していますが、これは拙い日本語で面白味を出してください。

おはなし

 山の山の、ずっと山おくに、さるのサルキチが住んでいました。
 ある日のことです。サルキチは、山をおりて、川のふちまできました。
 サルキチは、川のふちに、舟が一そう、つないであるのを、見つけました。

 「あっ、舟だ。ぼく、この舟に乗って、こいでみよう」
 サルキチは、舟に乗ると、かいをにぎりました。
 「それっ、こぐぞ」
 サルキチは、力いっぱい舟をこぎました。

 そのうちに、サルキチは、川の入り口まで、きてしまいました。
 そこは、舟のたくさんいる港でした。サルキチは、港の波止場にあがって、海をみました。
 「わあ、たくさんの舟だ。みんな旗をたてている。日の丸ヒラヒラ、日本の舟。あれは、アメリカ星条旗。あの舟、イギリス。あの舟、オランダ。わあ、たくさんの舟だなあ」

 しばらくすると、サルキチのいる、波止場に向かって、舟がきました。
 「あっ、あの舟。中国の旗をたてている。あれは中国の舟だな」
 やがて中国の舟からさるがおりてきて、サルキチのそばに、やってきました。
 サルキチの着ているのは、でんちという、みじかい羽織りのような、そでなしの日本の着物です。けれども中国のさるは、長い中国の服を、着ていました。
 中国のさるは、サルキチの前で、めずらしそうに、でんちを着たサルキチを、ながめていました。

 「おお、あなた。日本、さるありますか」
 「はい。ぼく、さるのサルキチです」
 「おお、あなた、サルキチさん。なかなか、よいさるありますね。わたし、中国のさる、わたし名前、ユワンホウ、どうぞよろしく」
 「へえ、ユワンホウさん。ユワンホウさんって、へんな名前ですね」
 「サルキチさん。わたし、日本の歌、知りたい。歌ってくたさい」
 「えっ、ユワンホウさん。日本の歌を知りたい。困っちゃったなあ。ぼくは歌、へたですよ」
 「へた、よろしい。へた、よろしい。歌ってくたさい」
「よし。では、ぼく、歌います」

  エッサエッサ、エッサホイサッサ
  お猿のかごやは、ホイサッサ
 日暮れの山道、細い道……。

 サルキチが歌うと、中国のユワンホウは、大よろこびをしました。
 「シェー、シェー、サルキチさん」
 「えっ、ユワンホウさん。シェー、シェーって、なんのこと」
 「おお、シェー、シェー。これ中国の言葉、ありかとういうこと」
 「えっ、ありがとうということを、シェー、シェーって、いうんですか。へんな言葉ですね」
 「サルキチさん。お礼に中国の服をあけましょう」
 サルキチは、ユワンホウから中国の服を、もらいました。
 「わあ、これはこれは、ユワンホウさん。ありがとう、ありがとう。そうだ中国の言葉で……、シェー、シェー。ほんとにどうも、シェー、シェー」
 「おお、サルキチさん、さよなら」
 中国のさるのユワンホウは、どこかへ、いってしまいました。

 しばらくすると、サルキチのいる波止場に、また舟がきました。それは、インドネシアの舟でした。
 その舟から、インドネシアのさるが、サルキチのそばへ、やってきました。
 インドネシアのさるは、サロンという長い布を、腰に巻いていました。
 このインドネシアのさるも、サルキチの着ているでんちを、めずらしそうに、見ていました。

 「おお、あなた。日本のサルですか」
 「はい、ぼく。さるのサルキチです」
 「おお、あなた、サルキチさん。よいさるね。わたし、インドネシアのさる、名前、モニャット。どうぞよろしく」
 「へえ、モニャットさん。へんな名前ですねえ」
 「サルキチさん。わたし、日本の歌、聞きたい。歌ってください」
 「えっ、モニャットさん。日本の歌、聞きたいって、困っちゃったなあ。ぼくは、歌、へたですよ」
 「へた、よろしい。へた、よろしい。歌ってください」
 「よし。じゃ、ぼく、歌いますよ」

  お山のお猿は、まりがすき
  てんてん まりつきゃおどりだす
  ほんにお猿は、どうけもの……。

 サルキチが歌うと、インドネシアのさる、モニャットは、大よろこびをしました。
 「テレマカシー。テレマカシー。サルキチさん」
 「えっ、モニャットさん。テレマカシーって、なんのこと」
 「おお、テレマカシー。これ、インドネシアの言葉。ありがとう、いうことです」
 「へえ、ありがとうということを、インドネシアでは、テレマカシーと、いうんですか。へんな言葉ですね」
 「サルキチさん、テレマカシー。そのお礼に、サロン、あげましょう。このサロン、腰に巻きなさい」

 サルキチは、モニャットから、インドネシアのサロンをもらいました。
 「わあ、これは、インドネシアのサロン。モニャットさん、ありがとう。そうだ。インドネシアの言葉で……、テレマカシー、テレマカシー」
 「おお、サルキチさん、さようなら」
 インドネシアのさる、モニャットは、どこかへ、いってしまいました。

 また、しばらくすると、サルキチのいる波止場に、舟に乗って、アメリカのさるが、やってきました。
 アメリカのさるは、洋服を着て、首にネクタイを、していました。
 アメリカのサルは、サルキチの着ているでんちを、めずらしそうに、じっと見ていました。

 「おお、あなた。日本のさる、ありますねえ」
 「はい。ぼく、さるのサルキチです」
 「おお、あなた、サルキチさん。わたし、アメリカのさる、名前モンキー。どうぞよろしく」
 「へえ、モンキーさん。へんな名前ですねえ」
 「サルキチさん。わたし、日本の歌、聞きたい。歌ってください」
 「えっ、日本の歌を、歌うんですか。困っちゃったなあ。ぼくは歌、へたですよ」
 「へたでよろしい。へたでよろしい。歌ってください」
 「よし、じゃ、ぼく、歌いますよ」

  動物園のお猿さんは
  親ざる子ざる
  あれあれ、ブランコしているよ
  ユラユラ、ユラユラ、ゆれてるよ……。

 サルキチが歌うと、アメリカのモンキーは、大よろこびをしました。
 「サンキュー。サンキュー。サルキチさん」
 「えっ、モンキーさん。サンキューって、なんのこと」
 「おお、サンキュー。これアメリカの言葉。ありがとう、いうことです」
 「へえ、ありがとうを、アメリカでは、サンキューって、いうんですか」
 「サルキチさん、サンキュー。お礼に、ネクタイあげましょう」

 サルキチは、アメリカのモンキーから、ネクタイをもらいました。
 「わあ、これは美しいネクタイ。モンキーさん、ありがとう。そうそう、アメリカの言葉で……。サンキュー、サンキュー」
 「おお、サルキチさん。さようなら」
 アメリカのさる、モンキーは、どこかへ、いってしまいました。

サルのサルキチは、今まで着ていたでんちをぬいで、中国のユワンホウからもらった、中国の服を着ました。それから、インドネシアのモニャットからもらったサロンを、ぐるぐる腰に、巻きました。それにアメリカのモンキーからもらったネクタイを、首にしめました。
 サルキチのすがたは、中国の服にサロン。それにネクタイを、しめましたので、それはそれは、変なかっこうになりました。
 それでも、サルキチは、大よろこびです。
 「わあ、うれしいなあ。中国の服にサロン、ネクタイつけた、ぼくのすがたは、きっとりっぱにちがいない。山へ帰ったら、山のさるたちみんな感心するぞ。それにぼくは、外国の言葉を、おぼえたのだからな。シェー、シェー。テレマカシー。サンキュー、サンキュー」

 山へ帰ったサルキチは、さるのたくさん集まっているところへ、やってきました。
 「エヘン、どんなもんじゃい。ちょっと、このサルキチさんを、見てもらいたい」
 たくさんのさるたちは、サルキチを見て、びっくりしました。

 「おや、おや、サルキチ。なんだい、そのかっこうは」
 「エヘン、舟に乗って、港の町まで、いったのさ……。でんちなんか山ざるの着るものだ。でんちをぬいで、このとおり……。それっ、これは中国の服。これはサロン。これはネクタイ……。どうだ、りっぱだろう」
 ほかのさるたちは、笑い出しました。それでも、サルキチは、いばっていました。
 「それだけではないぞ。言葉もおぼえたんだ。シェー、シェー。テレマカシー。サンキュー、サンキュー」
 でも、ほかのさるたちは、感心してくれません。

 「サルキチ。港の町までいって、へんなかっこうだけをおぼえてきたな……。まねばかりして、いばってらあ……。それをさるまねというんだ。サルキチは、さるまねのサルキチだあ」
 サルキチは、みんなに笑われて、がっかりしてしまいました。
 サルキチは、山の中で、自分だけが、中国の服にサロン、ネクタイをつけていることが、はずかしくなって、またでんちを着た、日本のさるのすがたに、なりました。