栗ひろい

時間:13:14

おはなし:出村孝雄
え:長谷部はるか
作:出村孝雄
制作:Bit Beans

本動画は、昭和50年代にCBCミュージック(現CBCラジオ)にて
録音された出村孝雄の音声に、新たに音楽を制作し再編集したものです。
※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります

このおはなしの目当て
暴力が人々を苦しめること。苦しい時には、訴えて救いを求めることも必要であることを知らせたい。
読み聞かせのポイント
トラ大臣は真に悪党、ライオン王さまは、いつくしみ深い王者として、会話をすすめてください。やぎとうさぎの会話は、区別をはっきりするために、ことばのはじめに「メーメー」「ピョン、ピョン」を加えました。

おはなし

 山の中に、動物の国がありました。動物の国の王さまライオン王さまは、年をとってしまいました。
 でも、ライオン王さまは、山の動物たちが、みんな、なかよく、しあわせに暮らせるようにと、いつも心配していました。
 それなのに、とらのトラ大臣は、よくばりで、たいへんならんぼう者でした。

 あるとき、トラ大臣は、こんなことを考えました。
 「山には、栗がたくさん、なっている。この山の栗を、みんな集めて、わしひとりのものにしてやろう……。それには、よいことがある。この山の動物たちは、ライオン王さまのいうことなら、なんでも聞くから、ライオン王さまの、いいつけだといって、栗を集めることにしよう」
 トラ大臣は、じぶんの家の前の、大きな岩の上に立ちました。

 「ウォー、ウォー。山の動物たちは、みんな集まれえ」
 みんな集まってきました。メー、メー、やぎもきました。ピョン、ピョン、 うさぎもきました。犬も、きつねも、ぶたも、みんなやってきました。
 トラ大臣は、ひげを、ピーンと、はねて、いいました。
 「エヘン、これから、たいせつなことをいうから、よく聞け。ライオン王さまが、栗の実を、ほしいとおっしゃるのだ。それで、山の動物は、だれでもひとりで栗を千、千個、ひろって、あと五日のあいだに、このトラ大臣の家まで持ってこい。よいか、栗を千、千個、ひろって持ってくるのだ。わかったか」
 動物たちは、びっくりしました。

 「まあ、栗を千。あと五日に」
 みんな、ボソ、ボソ、いいながら、こまってしまいました。
 そこで、うさぎが、おそる、おそる、トラ大臣に、ききました。
 「トラ大臣さま。もし、五日かかっても、栗が千個、ひろえなかったときには、どうなるのでございますか」
 「うん、それができなければ、このトラ大臣が、かみついてやる」

 動物たちは、かみつかれると聞いて、びっくりしました。
 そこで、やぎが、おそる、おそる、いいました。
 「トラ大臣さま。かみつくような、らんぼうなことは、おやめください」
 「なにをいうか、やぎ。これは、みんな、ライオン王さまのおいいつけじゃ。さあ、すぐ栗ひろいにかかれえ……。あと五日のうちに、栗を千個、ここへ持ってくるんだぞ」

 山の動物たちは、みんな、栗をひろいはじめました。
 日は、どんどん、過ぎて、五日めになりました。動物たちは、ひろった栗を、トラ大臣の家にはこびました。
 「ワン、ワン、ワン。トラ大臣さま、栗を千、持ってきました。どうぞ、ライオン王さまに、さしあげてください」
 「おう、犬か。そこへ、あけてみろ」
 「はい、このとおり」
 ザラ、ザラ、ザラ。犬は大きなかごから栗をあけました。
 こんどは、きつねがきました。

 「コン、コン、コン。トラ大臣さま、栗を千、持ってきました。では、ここに、あけますよ」
 ザラ、ザラ、ザラ……。そこへ、ぶたがきました。
 「ブー、ブー、ブー。トラ大臣さま、栗を千、持ってきました。そら、この とおり」
 ザラ、ザラ、ザラ……。動物たちが、みんな、栗をはこんだので、トラ大臣の庭には、栗が山のように、つまれました。
 ところが、トラ大臣は、まだ栗を持ってこない者があるのに、気がつきました。
 「うむ、まだ栗を持ってこないのは、 やぎとうさぎだ。よし、この夕方までに、こなかったら、やぎもうさぎも、かみついてやる」
 トラ大臣は、やぎとうさぎのくるのを待っていました。

 さあ、やぎとうさぎは、どうしたのでしょう。
 やぎもうさぎも、いっしょうけんめいに、栗をさがしていました。
 「メー、メー、メー。こまったなあ。もう、栗はどこにも落ちていない。千にするのには、まだ五つたらないもの、ぼく、こまっちゃったあ」
 「ピョン、ピョン、ピョン。ぼくも、まだ五つたらないよう。こまっちゃったあ」
 「うさぎくん。しかたがないから、このまま、トラ大臣のところへ、持っていこう」
 「やぎくん、だめだよ。あのらんぼうなトラ大臣に、かみつかれるよ。かみつかれたら、死んでしまうかもしれないよ」

 もう、日は暮れかかりました。
 それでも、やぎとうさぎは、栗をさがしながら山を歩いていました。
 そのうちに、ライオン王さまの、ご殿のそばまで、きてしまいました。
 ライオン王さまのご殿の庭には、栗の木が、たくさんはえていて、栗の実が、いっぱいなっているのが、外から見えました。
 やぎはうさぎに小さな声でいいました。

 「ねえ、うさぎくん。このライオン王さまの、ご殿の庭には、きっと栗の実が、たくさん落ちているよ。それをひろえば、千になるよ」
 「ほんとだ。この庭の栗をひろえばいい」
 やぎとうさぎは、ご殿のかきねを、のりこえて、庭へはいっていきました。
 王さまのご殿のひろい庭には、一めんに、たくさんの栗の実が、落ちていました。やぎもうさぎも、大よろこびです。

 「メー、メー、メー。落ちてる、落ちてる、たくさんの栗」
「ピョン、ピョン、ピョン。さあ、ひろおう」
 「ほら、一つ、二つ、三つ……。ここにもある、四つ、五つ」
 やぎもうさぎも、むちゅうになって、栗をひろいました。すると、どこかで、
 「ウォー、ウォー」
 声がしました。やぎもうさぎも、ギョッと、しました。
 「庭に、はいってきたのは、だれだ」
 むこうからきたのは、ライオン王さまでした。
 「おや、おや、やぎとうさぎだな。これ、逃げなくてもよいぞ」
 ライオン王さまは、やぎとうさぎのそばにきました。
 「さあ、やぎとうさぎ。どうして、この庭の栗をひろっているのか、わけを話しなさい」
 そこで、やぎとうさぎは、ライオン王さまに、いままでのことを話しました。

 「王さま、わたくしたちは、トラ大臣さまの、おいいつけで、栗を千、千個ひろって、この夕方までに、トラ大臣さまのところへ、持っていかなければなりません」
 「なに、ひとりで千個か」
 「はい。できないと、トラ大臣さまに、かみつかれるのでございます」
 「なに、トラ大臣が、かみつくのか」
 「はい、ところが、わたくしたちは、栗を千にするのには、まだ五つ、たりません。それで、このご殿の庭で、栗をひろっていたのでございます」
 「ほう、トラ大臣は、その栗を、どうするのであろう」
 「はい、王さま。トラ大臣さまのおっしゃるのには、これは、ライオン王さまの、おいいつけだと、いうのでございます」
 これを聞いて、ライオン王さまは、おどろきました。
 「なに、なに、わしが、栗をひろえと、いいつけたって。わしは、そんなことは、一度もいったことはない。さては、あのトラ大臣うそをいったな」
 「メー、メー、メー。栗を千、ひろって持ってこいと、おいいつけになったのは、王さまではないのですか」
 「うん、わしは、この庭に落ちている栗だけでたくさんだ。山の栗は、この王さまのものでもなければ、トラ大臣のものでもない。山の動物、みんなのものだ」
 「ピョン、ピョン、ピョン。あのトラ大臣は、山の栗を、じぶんひとりのものにしようとしているのですね。ほんとに悪いトラ大臣だ。王さま、あのトラ大臣は、弱い者いじめをしてこまります」
 「そうであったか。では、やぎとうさぎ。これから、わしが、トラ大臣の家へいって、しかってやろう」

 ちょうどそのころ、トラ大臣は、家の庭に山のようにつまれた、栗をながめておりました。
 「もう、日が暮れた。まだ、やぎとうさぎは、栗を持ってこないぞ。よし、あのやぎとうさぎがきたら、かみついてやるぞ」
 そこへ、やってきたのは、やぎとうさぎでした。
 「メー、メー、メー。トラ大臣さま、こんばんは」
 「ピョン、ピョン、ピョン。トラ大臣さま、栗を持ってまいりました」
 「こら、やぎとうさぎ、栗を持ってきてもだめだ。お前たちは、やくそくのときよりも、おくれてきたから、ゆるすことはできん。さあ、かみついてやるぞ」
 トラ大臣は、大きな口をあけて、やぎとうさぎの方に、とびかかってきました。そのときです。
 「こらっ、トラ大臣。らんぼうを、やめろ」
 それは、ライオン王さまでした。トラ大臣は、びっくりしました。

 「これは、王さま」
 トラ大臣は、ライオン王さまの前で、ペコンと、頭をさげました。
 「トラ大臣、うそをいって、動物たちを、苦しめているのは、けしからん。もう大臣をやめなさい」
 とうとう、トラ大臣は、大臣をやめさせられました。