お山はみどり

お山はみどり
時間:19:10

こえ:戸田恵子
著書:出村孝雄
制作:Bit Beans

※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります

このおはなしの目当て
無計画な伐採が水害の原因にもなるという。植林の大切なことを暗示しながら、危急な場合にあってなにより大切なことは生命を救うことであることを知らせたい。
読み聞かせのポイント
クマタロのいるこちらの山と、コンキチのいるむこうの山の区別が、はっきりするように心してください。クマタロの心のあたたかさを表現するために、その言葉は、おちついた、ゆっくりした口調で語ってください。

おはなし

 山が二つ、ならんでいました。
 こちらの山には、くまのクマタロが、住んでいました。むこうの山には、きつねのコンキチが、住んでいました。
 クマタロは、しんせつ者でしたが、コンキチは、いじ悪でした。

 ある日のことです。クマタロは、こちらの山道を、とぼとぼ、歩いていました。
 そのときです。どこかで、
 「助けてえ、助けてえ」
 と、呼んでいる者があります。クマタロは、びっくりしました。
 「だれだ。どこにいるんだ」
 「助けてえ。助けてえ」
 「どこだ。どこにいるんだ」
 クマタロは、大きなしいの木の下を見ました。と、どうでしょう。そこには一羽のハトが、羽を、バタ、バタさせながら、苦しんでいるでは、ありませんか。
 クマタロは、おどろいて、ハトのそばに、かけよって来ました。

 「ハトさん、ハトさん。どうしたの」
 「クマタロさん。わたしはねえ、むこうの山の木の下で、きつねのコンキチに、羽を、かみつかれたんです」
 「えっ、コンキチに、羽をかみつかれたって……」
 「はい、それでも、わたしは、ここまで、飛んで来たんですけどねえ、もう、飛ぶことができなくて、落ちてしまったんです」
 「それは、かわいそうに。では、ハトさん。ぼくの家へつれていって、あげましょう。さあ、いらっしゃい」
 クマタロは、ハトを抱いて、家へつれていきました。

 ハトは、クマタロの家で、いく日も、いく日も、休ませてもらいました。お薬もつけてもらいました。
 そのうちに、コンキチにかみつかれたハトの羽のきずも、すっかりなおってしまいました。
 「クマタロさん、クマタロさん、どうもありがとうございました。ほら、きずは、このとおり、すっかりなおってしまいました」
 「ほう、よかったね、ハトさん。それで、うまく飛べますか」
 「はい、もう、だいじょうぶです。ほんとに、ほんとに、ありがとうございました。では、クマタロさん。さようなら」
 ハトは、クマタロにお礼をいうと、サーッと、飛んでいってしまいました。

 その次の日のことです。朝早くおきたクマタロは、家の外に出てみました。
 「うわー。よいお天気だあ」
 クマタロは、グーンと、腕をのばし、空を見て、びっくりしました。
 「おや、おや。むこうから、たくさんの鳥が飛んでくる……。あれは、なんだろう……。あっ、あれは、はとだ。はとだ。わあ、たくさんのはとが飛んで来る……。一羽、二羽、三羽。四、五、六、七……。十、二十、三十……。七十、八十、百……。わあ、数えられないほどの、たくさんのはとだ」
 むこうの方から、たくさんのはとが、クマタロの方に向かって、飛んで来ました。
 「おや、あのはとたちは、みんな口に、変なものを、くわえている。あれは、なんだろう」
 そのうちに、たくさんのはとは、クマタロの前に、バタ、バタと、まいおりて来ました。はとたちが、口にくわえていたのは、小さな木の苗でした。
 「おや、このはとたちは、みんな木の苗を、くわえている」
 クマタロが、おどろいていると、一羽のハトが、クマタロのそばに、近づいて来ました。それは、クマタロが助けてやった、昨日、別れたばかりの、あのハトでした。

 「クマタロさん。コンキチにかみつかれた、羽のきずを、なおしてくださいまして、ありがとうございました。それで今日は、こちらの山、むこうの山のはとたちみんなで、お礼に来ました」
 「えっ、お礼に……」
 「はい、そのお礼に、この木の苗を、持って来ました」
 「えっ、木の苗を……」
 はい、クマタロさん。この小さな木の苗を、この山に植えてください。この木の苗は、お日さまの光をうけたり、雨に降られたりして、グン、グン、大きくなってね、この山一めん、緑の葉っぱで、つつまれてしまいますよ」
 「わあ、すばらしい。では、この山は、とても美しい山になるね」
 「はい、クマタロさん。この山に木がいっぱいしげると、どんな大雨が降っても、だいじょうぶ。大水にはなりません。大水は、こわいですからね……。川から水が、あふれ出て、家が流されたり、人やけものたちが、死ぬことだって、ありますからね」
 「へえ、ハトさん。大水って、そんなにこわいの」
 「はい、クマタロさん。こわい大水が出ないように、さあ、木の苗を植えて、山をしげらせてください」
 はとたちは、口にくわえた木の苗を、クマタロの前におくと、
 「では、クマタロさん。さようなら」
 バタ、バタッと、羽の音をたてて、みんな飛んでいきました。

 クマタロは、はとたちにもらった、木の苗のそばで、大声で呼びました。
 「さあ、くまの仲間は、みんな来ておくれよう……。ここに集まっておくれよう」
 さあ、来ました。来ました。くまの仲間たちが、みんなクマタロのところへ、集まって来ました。くまたちは、たくさんの木の苗を見て、おどろきました。
 「おや、クマタロさん。この小さな木の苗は……」
 「うん。これは、はとたちが持って来てくれたのだよ……。この苗を、こちらの山へ植えようよ。山を緑の葉っぱで、つつんでしまおう。山は美しくなるし、大雨が降っても、だいじょうぶ。こちらの川では、大水になって、家を流されたり、人やけものたちの、死ぬようなことだって、なくなるんだ」
 「わあい、わあい、すばらしい。では、これからすぐ、木の苗を山に植えましょう」
 くまたちは、みんなで、こちらの山に、木の苗を植えました。

 しばらくすると、木の苗は、お日さまの光をうけたり、雨にあたっているうちに、グン、グン、大きくなって、こちらの山は、すっかり緑の葉っぱに、つつまれてしまいました。
 それにくらべて、むこうの山の、きつねのコンキチは、仲間のきつねたちにいいつけて、山の木を、かたっぱしから切っていました。
 コンキチは、切った木で、川のそばに、大きな家をたてました。ですから、コンキチたちの、むこうの山は、はげ山になってしまいました。
 クマタロのいるこちらの山には、緑いっぱいに、木がしげっているのに、コンキチのいるむこうの山は、木が一本もない、はげ山です。

 やがて、毎日、毎日、雨の日がつづきました。クマタロは、木のいっぱいしげっている、木かげの小さな家の中に、じっとしていました。
 「毎日、よく降る雨だ。でも、こちらの川には、大水の出る心配はない。山に木がいっぱい、しげっているからな」
 そんなことを、考えていたときです。雨の音といっしょに、バタ、バタ、鳥の羽ばたく音がしてきました。

 「おや、あの音は……」
 しばらくすると、
 「クマタロさん、クマタロさん」
 外で、呼ぶものがあります。クマタロは、戸をあけました。そこには、いつかのハトが来ていました。
 「クマタロさん。たいへん、たいへん。たいへんですよ」
 「おや、ハトさん。なにがたいへんなの……」
 「今ねえ、むこうの川が、大水になってしまって、たいへんなんです」
 「えっ、では、コンキチのたてた家のそばの、あの川が……」
 「はい、クマタロさん。そのコンキチの家が流されてねえ」
 「えっ、それでコンキチは、どうしたの」
 「コンキチは、水に流されて、助けてえ、と、叫んでいるんです」
 「へえ、コンキチが、流されている……」
 「クマタロさん。コンキチは、悪いきつねだけれど、苦しんでいるのを見ると、かわいそうです。助けてやってください」
 クマタロは、しばらく考えていましたが、
 「よし、コンキチを、助けてやりましょう」
 クマタロは、外に出ると、大声で呼びました。

 「みんな、集まってくれえ。早く集まってくれえ」
 さあ、来ました。来ました。こちらの山のくまたちが、みんな集まって来ました。クマタロは、くまの仲間にいいました。
 「みんな、よく来てくれた。この雨で、大水になることを、心配していたが、こちらの川は、だいじょうぶだ」
 すると、くまの仲間がいいました。
 「クマタロさん。こちらの山には、木がしげっているから、だいじょうぶだね」
 「やっぱり、木の苗を植えてよかったね」
 クマタロは、仲間のいうことを「そうだ、そうだ」と、うなずいていましたが、声を大きくしていいました。
 「こちらの山は、みんなで木の苗を、植えたから、だいじょうぶだ。ところが、むこうの山の下では、川の水があふれて大水になって、コンキチが流されて、助けを呼んでるそうだ」
 くまの仲間はたち、顔を見あわせました。
 「あんな、いじ悪のきつねなら、流されたって、いいと思うけど……。でも、かわいそうだなあ」
 「うん、そこで、みんなに集まって、もらったんだ」
 「では、みんなで助けてやろう」
 クマタロと、くまの仲間たちは、コンキチを助けに、出かけました。

 大水に流された、きつねのコンキチは、沈んだり、浮かんだりしながら、
 「アップ、アップ。助けてえ、助けてえ」
 と、叫びつづけていましたが、もうからだが弱って、水の中に、沈みそうになってしまいました。
 そのとき、ハトが飛んで来ました。
 「コンキチさん。がんばって。今ね、くまさんたちが、助けに来てくれますよ」
 ハトは、流されていくコンキチの上を、まいながら、はげましていました。
 やがてクマタロと、くまの仲間たちが、助けに来てくれました。
 ハトは、流されていく、コンキチの上を、グル、グル、まいながら、はげましつづけています。
 「それ、くまさんたちが来た。コンキチさん、もうだいじょうぶ。くまさんたちが、助けてくれますよ……。がんばって、がんばって」
 それから、ハトは、大声で呼びました。
 「クマタロさん、くまさーん……。コンキチさんは、ここに流されていますよう……。早く助けてやって、くださーい」

 きつねのコンキチは、クマタロと、くまの仲間が投げてくれた、ロープにつかまって、助けてもらうことができました。
 いじ悪のコンキチは、ハトやクマタロ、くまの仲間に、もういじ悪をしないと、約束をしました。
 それから、しばらくすると、きつねのいる、あちらの山にも、木の苗が、見ごとに植わりました。