金のすず

時間:15:14

おはなし:出村孝雄
え:真鍋杏
著書:出村孝雄
制作:Bit Beans

本動画は、昭和50年代にCBCミュージック(現CBCラジオ)にて
録音された出村孝雄の音声に、新たに音楽を制作し再編集したものです。
※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります

このおはなしの目当て
人の扱いで、ものがよくなったり、わるくなったりする。よい心で、ものごとに接することができるようにとねがっての作品。
読み聞かせのポイント
いじわるじいさんと、しんせつじいさん。よい音のすずと、いやな音のすず。それぞれ区別のつく音声、態度を工夫してください。

おはなし

 まっ白い子ねこが、山道を、歩いていました。
 子ねこの首には、金色の鈴が、ぶらさがっていました。子ねこが歩くと、金色の鈴は、
 “チリリン、チリリン、チリリン、リン”
 とても、よい音をたてて鳴りました。

 「ニャオ、ニャオ、ニャオ」
 “チリリン、チリリン、チリリン、リン”
 子ねこは、鈴の音をたてながら、山道を歩いていました。
 そこへ来たのは、いじのわるい、いじわるじいさんでした。
 「おや、これは、これは。子ねこの首に、鈴が、ぶらさがっている。よし、この鈴は、わしがもらっていく」
 いじわるじいさんは、子ねこの首から、鈴をはずして、手に持ってみました。
 鈴は、金色に、ピカ、ピカ、光っていました。
 「おや、これは金だ、金だ。金の鈴だ」
 いじわるじいさんは、鈴をふってみました。
 “チリリン、チリリン、チリリン、リン”
 鈴は、とてもよい音をたてました。
 「うん、よい物を手に入れた。さあ、この金の鈴を、家へ持っていこう」
 いじわるじいさんは、金の鈴を持って歩きだしました。

 白い子ねこは、
 「ニャオ、ニャオ、ニャオ」
 なきながら、いじわるじいさんの、うしろからついてきます。
 いじわるじいさんは、
 「こら、子ねこ。ねこには用はないわ。どこかへ、行ってしまえ」
 と、追っぱらおうとしましたが、白い子ねこは逃げようともしません。
 「こら、この子ねこ。早くどこかへ消えてしまえ」
 いくら、いじわるじいさんが、おこってみても、子ねこはついてきます。
 腹をたてた、いじわるじいさんは、
 「このねこめ、どうしても、ついてくるというのだな……。よし、こうしてやるわ」
 子ねこを、ポーンと、けとばしました。

 いじわるじいさんに、鈴をとられてしまったうえに、けとばされた子ねこは、足に、けがをしてしまいました。
 びっこをひきながら、悲しそうな声で、
 「ニャオ、ニャオ、ニャオ」
 歩いていきました。
 そこへやってきたのは、心のやさしい、しんせつじいさんでした。
 「おや、おや、かわいい子ねこが来た。きれいな白い子ねこだ。おや、この子ねこ、びっこをひいているよ。かわいそうに」
 しんせつじいさんは、子ねこを、だきあげました。子ねこの足からは、血がにじみ出ていました。
 「おう、おう、かわいそうに、足をけがしている」
 「ニャオ、ニャオ、ニャオ」
 「うん、うん、足が痛いのだな……。よし、よし、わしの家へ行こう。きずの手当をしてやるよ」
 しんせつじいさんは、子ねこをだいて、家へ帰りました。

 では、いじわるじいさんは、どうしたでしょうか。
 子ねこの首から金の鈴をはずして、家へ持って帰った、いじわるじいさんは、その鈴をふってみました。
 “チリリン、チリリン、チリリン、リン”
 「ほい、ほい、よい音が出るぞ」
 “チリリン、チリリン、チリリン、リン”
 「さすがは金だ。金の鈴だから、こんなよい音が出るのにちがいない」
 “チリリン、チリリン、チリリン、リン”
 「おや、ふしぎだ……。この鈴の音を聞いていると、気分がよくなって、元気が、もりもり出てくるようだ……。よし、この鈴を、だれかに売りつけて、どっさり、おかねもうけをしよう」
 いじわるじいさんは、欲のふかい考えを出して、その金の鈴を、戸棚にしまっておきました。

 ところで、白い子ねこをひろって、家へ帰ったしんせつじいさんは、どうしたのでしょう。
 しんせつじいさんは、子ねこの足に薬をつけてやりました。
 「さあ、子ねこ。もう心配ないよ。けがはすぐなおるからな」
 子ねこは、おじいさんの顔を見ながら、
 「ニャオ、ニャオ、ニャオ」
 ないています。
 「おお、かわいい子ねこだ。よし、この子ねこを、家で飼ってやろう」
 「ニャオ、ニャオ、ニャオ」
 「よし、よし、子ねこ。おまえの名前を、つけることにしよう……。そうだ……。白い美しい毛をしているから、シロにしよう。シロ、シロ。シロと呼んだら、返事をするんだよ……。シロ」
 「ニャオ、ニャオ、ニャオ」
 「おお、シロはかわいいな……。シロにごはんをたべさせてやろう」

 しんせつじいさんは、とても、びんぼうでした。シロにごはんをたべさせてやると、それだけ、おじいさんのたべるごはんが、少なくなります。
 それでも、おじいさんは、じぶんのたべるごはんをへらして、シロにたべさせてやりました。
 それだから、日がたつと、シロはとても大きく強くなりました。それにくらべて、おじいさんは、元気がなくなり、からだが弱ってきました。そして、とうとう病気になってしまいました。

 ある日のことです。
 病気のしんせつじいさんは、ふとんの中で、苦しそうに「うん、うん」うなっていました。そばで、大きな、大きな、大ねこになったシロが、おじいさんの顔を、じっと見ていました。
 「おお、シロ、おまえは、わしのことを心配してくれるのだな。シロ、わしも、もう一度元気になって、シロといっしょに、いつまでもくらしたいのだよ」
 「ニャオ、ニャオ、ニャオ」
 「でも、もうわしはだめだ。このまま、死んでしまうかも知れん。わしが死ぬと、シロはひとりぼっちになる。シロを、ひとりぼっちの野良ねこにしてしまうことが、わしは悲しいのだよ」
 しんせつじいさんは、涙を流しました。

 ところで、いじわるじいさんは、どうしたでしょう。
 子ねこの首から、鈴をはずして、家へ持って帰ったじいさんは、その鈴を、高い値段で、だれかに売ってやろうと考えて、はり紙を出しました。
 はり紙には、
  「とても、よい音をたてる金の鈴、
  その音をきくと、元気がでてくる
  ふしぎな鈴、金の鈴を売ります」
 と、書いてありました。
 そのはり紙を見て、村の庄屋さんが、金の鈴を買いに来ましたが、あまり値段が高いので、買うのをやめました。となりの町のお医者さんが、買いに来ましたが、やはり高いので買うのをやめました。

 ある日のことです。
 いじわるじいさんの家に、刀をさした強そうなさむらいが、やってきました。
 「これ、じいさん。音を聞くと、元気が出てくるという、ふしぎな鈴があるというが、ほんとうか」
 「はい、おさむらいさま。ほんとうでございます」
 「じいさん、わしはな、お殿さまのお使いできたのだ。お殿さまは、『どんなに値段は高くてもよいから、その鈴を買ってこい』と、おっしゃるのだ。さあ、その鈴を、一度見せてくれ」
 「はい、はい、ごらんにいれましょう」
 いじわるじいさんは、心の中で、「よし、うんと高い値段で、金の鈴をお殿さまに、売りつけてやるぞ」と、考えながら、戸棚から金の鈴を、持ち出してきました。
 「おさむらいさま。これが、その金の鈴でございます……。さあ、おさむらいさま、手に持って、ふってごらんなさい」
 さむらいは、鈴を持ってみました。
 「ほう、これはよい鈴じゃ。どれ、どんな音をたてるのかな」
 さむらいは、鈴をふってみました。
 ところが、どうでしょう。鈴は、鳴るには鳴りましたが、よい音ではありません。
 “ゴツ、コツ、ゴツ”
 木を、つつくような、変な音をたてました。
 さむらいは、びっくりしました。

 「こら、じいさん。なんだ、この音は」
 「おや、おさむらいさま。では、わたしが、ふってみます」
 いじわるじいさんが、鈴をふってみましたが、やっぱり
 “ゴツ、コツ、ゴツ”
 変な音がして、前のような、“チリリン、チリリン、チリリン、リン”という、よい音は、なんべんふっても、出ませんでした。
 さむらいは、いじわるじいさんを、にらみつけました。
 「このうそつきめ、なんだ、この鈴の音は……。ああ、この音を聞いていると、気分がわるくなってくる。こんな鈴を高い値段で売ろうとする、このうそつきめ」
 さむらいはおこって、いじわるじいさんの家から出ていきました。
 いじわるじいさんは、さむらいが帰ってからも、この金の鈴を、なんべんも、 なんべんも、ふってみましたが、
 “ゴツ、コツ、ゴツ”
 と、いやな音をたてます。

 「えいっ、この鈴の音を聞くと、ほんとに気分がわるくなる。いままでよい音をたてていた鈴だったのに、どうして、こんな音になったんだ」
 腹をたてた、いじわるじいさんは、鈴をえんがわにぶつけました。
 鈴は、コロ、コロ、ころがって、庭へ落ちました。
 そのときです。一ぴきの、大きな白いねこが、
 「ニャアオ、ニャアオ」
 庭にはいってきました。あっと思うまに、白い大ねこは、金の鈴をくわえました。
 「あっ、この大ねこめ、なにをするんだ」
 いじわるじいさんは、その白い大ねこを、つかまえようとしましたが、大ねこは、鈴をくわえたまま、逃げていってしまいました。

 ちょうど、そのころです。
 病気のしんせつじいさんは、家の中で寝ていました。
 ところが、大ねこになったシロは、どこかへ出ていったまま、帰ってきません。
 「ああ、シロが、いなくなってしまった。シロは、病気のわしをきらって、どこかへ、行ってしまったのであろうか……。ああ、苦しい。わしは、もう死んでしまうかも知れん。シロ、シロ」
 ちょうど、そのときです。部屋の中に、ノッソリ、はいってきたのは、シロでした。シロが、金の鈴をくわえて、はいってきたのです。
 「あ、シロが帰ってきた……。おや、口にくわえているのは……。まあ、ピカ、ピカ、光る。おお、金の鈴だ。この鈴を、どこで、ひろってきたのだ」
 おじいさんは、シロの口から、金の鈴を取って、ふってみました。と、どうでしょう。鈴は、
 “チリリン、チリリン、チリリン、リン”
 とても、よい音をたてて鳴りました。
 しんせつじいさんが、なんべんも、なんべんも、鈴をふっているうちに、ふしぎなことがおきました。

 “チリリン、チリリン、チリリン、リン”
 その鈴の音を聞いているうちに、しんせつじいさんは、とても、よい気持ちになりました。病気の苦しさが、すっかりなくなって、元気が出てきました。
 そのうちに、しんせつじいさんは、ふとんの上にむっくり起きあがりました。
 「これは、ふしぎな鈴だ。シロ、よい物をひろってきてくれた。よし、これから、病気の人や、心のさみしくなった人たちに、この鈴の音を聞かせてやろう。わしと同じように、きっと元気になるだろうからな」
 ねこのシロも、しんせつじいさんのそばで、うれしそうに、
 「ニャアオ、ニャアオ」
 ないていました。