星の子キラス

時間:11:41

こえ:折出賢一
著書:出村孝雄
制作:Bit Beans

※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります

このおはなしの目当て
母の健康をねがうのは、どの子も同じ。そんな時、不老不死の薬があったら、どんなにうれしいことでしょう。しかし、科学は進んでも、情緒の面にかけていたら、さびしい生活になると思われます。進歩した科学に情操面も満たしたい。そんなことを目あてとしました。
読み聞かせのポイント
星の子キラスは、漫画に出てくる宇宙人ではなくて、かしこくて、かわいらしい少年をイメージとして与えてください。

おはなし

 マコちゃんのおかあさんは、病気で、ながい間、ねています。
 ある晩のことです。
 マコちゃんは、えんがわに出て、神さまにおいのりをしました。
 「神さま、おねがいでございます。はやくおかあさんの病気を、なおしてください」
 おいのりをすませたマコちゃんの耳に、美しい虫の声が聞こえてきました。

 「チンチロリン、チンチロリン」
 「スイーッチョン、スイーッチョン」
 「リーン、リーン、リーン」
 いろいろな秋の虫が、いっしょになき出しました。
 「わあ、美しい虫の声。ちょうど、虫の音楽会のようだわ」
 そのときです。

 「マコちゃん、マコちゃん」
 おかあさんが呼んでいます。
 「マコちゃん、えんがわのしょうじを、あけてください。虫の声が美しいから、聞いてみたいの」
 マコちゃんは、えんがわのしょうじをあけました。
 「ああ、よく聞こえるわね……。おや、虫の声も美しいけれど、こんやの星は、とてもきれいねえ」
 おかあさんに、いわれて、マコちゃんも空を見上げました。空には、いっぱいの星が、キラ、キラ、かがやいています。
 そのときです。マコちゃんは、びっくりしました。
 美しい星の空から、青く光ったものが、こちらにむかって、とんでくるではありませんか。

 「おかあさん、たいへん、そら、青く光って、なにかとんできますよ」
 おかあさんも、おどろきました。
 「おや、なんでしょう。ずいぶん、はやくとんできますね」
 青く光ったものは、星のかがやいている空から、ぐんぐん、近づいてきました。マコちゃんは、こわくなりました。
 「おかあさん、わたし、こわい」
 「マコちゃん、はやく、えんがわの戸をしめなさい」
 マコちゃんは、えんがわの戸をしめて、おふとんの中の、おかあさんのからだに、だきついて、こわがっておりました。

 それからしばらくすると、マコちゃんの家の、えんがわの戸を、トン、トン、たたくものがあります。
 「あけてください、あけてください」
 病気のおかあさんも、マコちゃんも、だまっていました。
 「あけてください、おねがいです。わたくしは、悪い者ではありません」
 それは、男の子どもの声でした。
 それでも、おかあさんと、マコちゃんは、だまっていました。
 「あけてください。わたくしは、星からきました。宇宙船にのって、いま、ここに着いたばかりの、星にすんでいる星の子どもです」
 星の子どもと聞いて、マコちゃんは安心しました。
 「おかあさん。あんなに美しい星にすんでいる子どもなら、きっと、よい子でしょうね。わたし、戸をあけてあげる」

 マコちゃんが戸をあけると、マコちゃんより、すこし大きな男の子が、はいってきました。
 その子は、マコちゃんのおかあさんの、おふとんのそばに、きちんと、すわりました。
 「わたくしは、星の子キラスです。わたくしのすんでいる星は、そら、みなさんが、天の川といっている、あの近くにあるんです。いま、宇宙船にのって、この地球に着いたばかりです」
 星の子キラスは、とても、かしこそうな顔をした、かわいい男の子でした。マコちゃんは、すっかり安心しました。

 「では、星の子キラスさんというのね。わたしはマコ。ここにねているのは、おかあさん。おかあさんは病気で、ながいこと、ねているんです」
 「マコちゃんのおかあさんは、ご病気ですか、それは、ご心配ですね」
 星の子キラスは、マコちゃんのおかあさんの顔を、じっと見ながら、だまってしまいました。外では、秋の虫の、美しい声が聞こえています。
 「チンチロリン、チンチロリン」
 「スイーッチョン、スイーッチョン」
 「リーン、リーン、リーン」

 しばらくすると、星の子キラスが、思いついたようにいいました。
 「じつは、わたくしは、さっきまで宇宙船にのって、あの星の空をとんでいました。ところが、わたくしの耳にあてている器械に、とても美しい声が聞こえてきました。ほら、いま、外で聞こえているあの美しい声です。それで、美しい声のするここに、宇宙船を着けたのです。」
 「キラスさん、あれは、秋の虫の声です。わたしも、さっきまで、おかあさんと、あの虫の声を聞いていたのよ」
 星の子キラスは、いかにも、おどろいたという顔つきでした。

 「へえ、虫の声ですか。わたくしたちの星には、虫はいません」
 「あら、キラスさんのいる星には、虫がいないの」
 「そうです。虫もいません。ほかの動物もいません。人間だけが、すんでいるんです。でも、わたしたち星の人間は、いろいろなものを発明しました。ほら、この薬も、その一つです」
 星の子キラスは、薬のはいっているびんを出しました。
 「この薬をのめば、どんな病気も、すぐなおります。いつまでも、生きることが、できるのです」
 「では、キラスさん。その薬をおかあさんがのめば、すぐ病気がなおるのね。おかあさんは、じょうぶになって、いつまでも、生きていてくれるのですね」
 「そうです。さあ、この薬をおかあさんに、のませてあげなさい」
 「まあ、キラスさん、ありがとう」

 星の子キラスから、もらった薬を、マコちゃんのおかあさんが、のんでみました。
 すると、どうでしょう。マコちゃんのおかあさんは元気が、モリ、モリ、出てきて、病気は、すっかりなおってしまいました。
 床からおき上がったおかあさんは、星の子キラスにお礼をいいました。

 「キラスさん、ほんとに、ありがとう。さあ、キラスさん。キラスさんになにか、ごちそうしましょうね」
 すると、キラスは、
 「マコちゃん、マコちゃんのおかあさん、おねがいです。虫をください。あの美しい声をたてている、虫をください」
 といって、えんがわの方へいきました。
 「わたくしたちの星には、人間ばかりで、かわいらしい動物は、一ぴきもいません。かわいらしいもの、美しいものをたいせつに、かわいがって、そだててみたいのです。美しい声で、たのしませてくれた虫を、わたくしにください」
 えんがわからおりて、外に出た星の子キラスは、マコちゃんといっしょに、虫をつかまえました。

 星の子キラスは、マコちゃんに、虫かごをもらいました。
 虫かごに入れられた秋の虫は、よい声をたてて、いっせいになきだしました。
 「チンチロリン、チンチロリン」
 「スイーッチョン、スイーッチョン」
 「リーン、リーン、リーン」
 星の子キラスは、マコちゃんと、病気のなおった、マコちゃんのおかあさんに見送られて、宇宙船にのると、星のいっぱい、かがやいている大空にむかって、とんでいきました。