星の子キラス
※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります
- このおはなしの目当て
- 母の健康をねがうのは、どの子も同じ。そんな時、不老不死の薬があったら、どんなにうれしいことでしょう。しかし、科学は進んでも、情緒の面にかけていたら、さびしい生活になると思われます。進歩した科学に情操面も満たしたい。そんなことを目あてとしました。
- 読み聞かせのポイント
- 星の子キラスは、漫画に出てくる宇宙人ではなくて、かしこくて、かわいらしい少年をイメージとして与えてください。
おはなし
マコちゃんのおかあさんは、病気で、ながい間、ねています。
ある晩のことです。
マコちゃんは、えんがわに出て、神さまにおいのりをしました。
「神さま、おねがいでございます。はやくおかあさんの病気を、なおしてください」
おいのりをすませたマコちゃんの耳に、美しい虫の声が聞こえてきました。
「チンチロリン、チンチロリン」
「スイーッチョン、スイーッチョン」
「リーン、リーン、リーン」
いろいろな秋の虫が、いっしょになき出しました。
「わあ、美しい虫の声。ちょうど、虫の音楽会のようだわ」
そのときです。
「マコちゃん、マコちゃん」
おかあさんが呼んでいます。
「マコちゃん、えんがわのしょうじを、あけてください。虫の声が美しいから、聞いてみたいの」
マコちゃんは、えんがわのしょうじをあけました。
「ああ、よく聞こえるわね……。おや、虫の声も美しいけれど、こんやの星は、とてもきれいねえ」
おかあさんに、いわれて、マコちゃんも空を見上げました。空には、いっぱいの星が、キラ、キラ、かがやいています。
そのときです。マコちゃんは、びっくりしました。
美しい星の空から、青く光ったものが、こちらにむかって、とんでくるではありませんか。
「おかあさん、たいへん、そら、青く光って、なにかとんできますよ」
おかあさんも、おどろきました。
「おや、なんでしょう。ずいぶん、はやくとんできますね」
青く光ったものは、星のかがやいている空から、ぐんぐん、近づいてきました。マコちゃんは、こわくなりました。
「おかあさん、わたし、こわい」
「マコちゃん、はやく、えんがわの戸をしめなさい」
マコちゃんは、えんがわの戸をしめて、おふとんの中の、おかあさんのからだに、だきついて、こわがっておりました。
それからしばらくすると、マコちゃんの家の、えんがわの戸を、トン、トン、たたくものがあります。
「あけてください、あけてください」
病気のおかあさんも、マコちゃんも、だまっていました。
「あけてください、おねがいです。わたくしは、悪い者ではありません」
それは、男の子どもの声でした。
それでも、おかあさんと、マコちゃんは、だまっていました。
「あけてください。わたくしは、星からきました。宇宙船にのって、いま、ここに着いたばかりの、星にすんでいる星の子どもです」
星の子どもと聞いて、マコちゃんは安心しました。
「おかあさん。あんなに美しい星にすんでいる子どもなら、きっと、よい子でしょうね。わたし、戸をあけてあげる」
マコちゃんが戸をあけると、マコちゃんより、すこし大きな男の子が、はいってきました。
その子は、マコちゃんのおかあさんの、おふとんのそばに、きちんと、すわりました。
「わたくしは、星の子キラスです。わたくしのすんでいる星は、そら、みなさんが、天の川といっている、あの近くにあるんです。いま、宇宙船にのって、この地球に着いたばかりです」
星の子キラスは、とても、かしこそうな顔をした、かわいい男の子でした。マコちゃんは、すっかり安心しました。
「では、星の子キラスさんというのね。わたしはマコ。ここにねているのは、おかあさん。おかあさんは病気で、ながいこと、ねているんです」
「マコちゃんのおかあさんは、ご病気ですか、それは、ご心配ですね」
星の子キラスは、マコちゃんのおかあさんの顔を、じっと見ながら、だまってしまいました。外では、秋の虫の、美しい声が聞こえています。
「チンチロリン、チンチロリン」
「スイーッチョン、スイーッチョン」
「リーン、リーン、リーン」
しばらくすると、星の子キラスが、思いついたようにいいました。
「じつは、わたくしは、さっきまで宇宙船にのって、あの星の空をとんでいました。ところが、わたくしの耳にあてている器械に、とても美しい声が聞こえてきました。ほら、いま、外で聞こえているあの美しい声です。それで、美しい声のするここに、宇宙船を着けたのです。」
「キラスさん、あれは、秋の虫の声です。わたしも、さっきまで、おかあさんと、あの虫の声を聞いていたのよ」
星の子キラスは、いかにも、おどろいたという顔つきでした。
「へえ、虫の声ですか。わたくしたちの星には、虫はいません」
「あら、キラスさんのいる星には、虫がいないの」
「そうです。虫もいません。ほかの動物もいません。人間だけが、すんでいるんです。でも、わたしたち星の人間は、いろいろなものを発明しました。ほら、この薬も、その一つです」
星の子キラスは、薬のはいっているびんを出しました。
「この薬をのめば、どんな病気も、すぐなおります。いつまでも、生きることが、できるのです」
「では、キラスさん。その薬をおかあさんがのめば、すぐ病気がなおるのね。おかあさんは、じょうぶになって、いつまでも、生きていてくれるのですね」
「そうです。さあ、この薬をおかあさんに、のませてあげなさい」
「まあ、キラスさん、ありがとう」
星の子キラスから、もらった薬を、マコちゃんのおかあさんが、のんでみました。
すると、どうでしょう。マコちゃんのおかあさんは元気が、モリ、モリ、出てきて、病気は、すっかりなおってしまいました。
床からおき上がったおかあさんは、星の子キラスにお礼をいいました。
「キラスさん、ほんとに、ありがとう。さあ、キラスさん。キラスさんになにか、ごちそうしましょうね」
すると、キラスは、
「マコちゃん、マコちゃんのおかあさん、おねがいです。虫をください。あの美しい声をたてている、虫をください」
といって、えんがわの方へいきました。
「わたくしたちの星には、人間ばかりで、かわいらしい動物は、一ぴきもいません。かわいらしいもの、美しいものをたいせつに、かわいがって、そだててみたいのです。美しい声で、たのしませてくれた虫を、わたくしにください」
えんがわからおりて、外に出た星の子キラスは、マコちゃんといっしょに、虫をつかまえました。
星の子キラスは、マコちゃんに、虫かごをもらいました。
虫かごに入れられた秋の虫は、よい声をたてて、いっせいになきだしました。
「チンチロリン、チンチロリン」
「スイーッチョン、スイーッチョン」
「リーン、リーン、リーン」
星の子キラスは、マコちゃんと、病気のなおった、マコちゃんのおかあさんに見送られて、宇宙船にのると、星のいっぱい、かがやいている大空にむかって、とんでいきました。