山びこ
※口演童話の性質上、音声が童話の内容と違う場合があります
- このおはなしの目当て
- おやつばかり不規則にたべていると、食事がまずくなり、栄養にかけることがあります。空腹にしてたべれば、食事のとき量もふえて栄養の面でプラスにもなる。そんなことを考えて、山びこを追いながら、子どもを空腹にさせました。
- 読み聞かせのポイント
- 三ちゃんの呼ぶ「なにかあ」と、山びこの答える「なにかあ」は、はっきり区別をつけてください。山びこの方は、遠くから聞こえてくるのですから、小さな声でゆっくりと。また、山びこを聞くときの、適当なジェスチャーもくふうしていただきたいと思います。
おはなし
三ちゃんには、悪いくせがありました。
三ちゃんは、ごはんをたべたあとで、いつも、おかあさんに、おやつのおねだりをします。
「おかあさん、なにかちょうだい、なにか、なにかあ」
おやつをたべたあとでも、すぐ、おねだりです。
「おかあさん、なにかちょうだい、なにか、なにかあ」
おかあさんの顔さえ見れば
「おかあさん、なにかちょうだい、なにか、なにかあ」
と、おねだりです。
一日に、なんかいも、お菓子をたべている三ちゃんは、ごはんは少ししかたべません。よく、おなかをいためますので、おかあさんは、とても心配していました。
ある日のことです。
お昼ごはんをたべた三ちゃんは、また、おねだりをしました。
「おかあさん、なにかちょうだい、なにか、なにかあ」
「おや、また、はじまりましたよ。三ちゃんは、今、ごはんをたべたばかりでしょう。もうしばらく、がまんしましょうね」
「いやだあ、なにかちょうだい、なにか、なにかあ」
「三ちゃん、そんなに、なにか、なにかあというなら、なんでもある、なにか山へいったほうがよいようね。……さあ、これからお友だちとあそんでいらっしゃい。そのあとで、おやつをあげますからね」
「なんでもある、なにか山ってあるの、そんな山へいってみたいな」
と、いいながら、三ちゃんは外へ出ていきました。
外に出た三ちゃんは、家の前の原っぱで、ぼんやり空を見ておりました。空は青空です。その青い空に、白い雲が、ふわり、ふわり、とんでおりました。
「わあ、白い雲が、とんでいる。あの白い雲に乗ってみたいな。原っぱも山も、下に見えるからな、山といえば、おかあさんが、いっていた、なんでもある、なにか山ってどこだろうな、あの白い雲に乗って、なにか山へいってみたいな、なにか山へいって、なんでも、なんでもたべてみたいよ」
三ちゃんは、そんなことを思いながら、白い雲のとんでいる空を、じっと見ておりました。
と、どうでしょう。空のむこうから、白い雲が、ふわり、ふわり、三ちゃんの方に向かっておりてきました。
「わあ、白い雲がおりてきた。……あっ、あの雲の上に、おじいさんが乗っている」
しばらくすると、白い雲に乗ってきたおじいさんは、三ちゃんのそばにきました。
「あっ、おじいさんは、だれですか」
そのおじいさんは、白髪を長くのばして、白いひげ、白い着物をきた、とてもやさしそうなおじいさんです。長い杖を持って、立っていました。
「三ちゃん、わたしはな、なにか、なにかあの、なにか山のおじいさんだよ」
「えっ、なにか山のおじいさん」
「はい、はい、三ちゃん、なにか山には、とても、おいしいものが、たくさんあるんだよ。さあ、おじいさんといっしょに、なにか山へいきましょう」
「おじいさん、なにか山って、どこにあるの」
「三ちゃん、ずっとむこうに、山がかすんで見えるだろう。あの山を越えていくのだよ」
「おじいさん、そんな遠くの山へ、ぼくはいけないよ」
「三ちゃん、おじいさんといっしょならだいじょうぶ、さあ、いこう」
おじいさんは、持っていた杖を、ビューッと、ふりまわしました。と、空から白い雲が、むく むく集まってきました。
三ちゃんは、おじいさんといっしょに、雲に乗ってふわり、ふわり、空へとんで行きました。
しばらくして、三ちゃんは、高い山の上におりました。
「おじいさん、ここが、なにか山ですね。さあ、なにかちょうだい、なにか、なにかあ」
「三ちゃん、もっと大きな声で、なにか、なにかあ、と、呼んでごらん」
三ちゃんは、大声をはりあげました。
「なにか、なにかあ」
そのときです。むこうの山の方から声が聞こえてきました。
「なにか、なにかあ」
三ちゃんは、びっくりしました。
「あっ、おじいさん、むこうの山でも、なにかあ、と、いってるよ」
「そうだよ、三ちゃん、なにか山は、もっとむこうだ。さあ、むこうの山へいってみよう」
また、おじいさんは、持っている杖を、ビューッと、ふりまわしました。と、空から白い雲が、むく むく、集まってきました。
三ちゃんは、おじいさんといっしょに雲に乗って、ふわり、ふわり、空へとんでいきました。
しばらくして、三ちゃんは、また、高い山の上におりました。
「おじいさん、ここが、なにか山ですね。おじいさん、さあください、なにか、なにかあ」
「三ちゃん、もっと大きな声で呼んでごらん、なにか、なにかあ と、ね」
三ちゃんは、ガッカリしました。
「おじいさん、まだ、なにか山には着かないの、なにか山って、どこにあるの」
「さあ、大きな声で、呼んでみなさい」
三ちゃんは、また、大声を、はりあげました。
「なにか、なにかあ」
と、そのときです。もっと、むこうの山の方から、声が聞こえてきました。
「なにか、なにかあ」
三ちゃんは、また、びっくりしました。
「おや、おじいさん、なにか山は、もっとむこうですね」
「そうだよ。なにか山は、もっとむこうだ。さあ、いこう」
おじいさんは、また、杖をビューッと、ふりまわしました。白い雲が、むく むく、集まってきて、おじいさんと三ちゃんは、その雲に乗って、空をとんでいきました。
こうして、三ちゃんは、おじいさんといっしょに、雲に乗って、山から山を越えて「なにか、なにかあ」と、呼んでいるうちに、おなかが、ペコペコに、すいてしまいました。
「おじいさん、ぼくおなかがすいて、ペコ ペコです。なんでもよいから、なにかたべるものを ください」
おじいさんは、目を丸くしていいました。
「ほう、三ちゃん、おなかがすいてしまったの、では、よいものをあげよう」
おじいさんは、「えいっ」と、いって杖をふりました。おじいさんの片手に、ピョイと、のったのは、おにぎりでした。
「さあ、この、おにぎりを、たべてごらん」
三ちゃんは、おじいさんから、おにぎりをいただくと、とても、おいしそうにたべました。
「ああ、おいしい、こんな、おいしいおにぎり、ぼく、はじめてだあ、ああおいしい」
三ちゃんが、おにぎりをたべてしまうと、おじいさんは、にっこり笑っていいました。
「三ちゃん、おなかがすいてから、たべると、たいていのものが、おいしくたべられるよ。これから、きまった時間に、おやつをいただいて、ごはんになるまでは、なにか、なにかあ、と、おねだりしないようにしようね」
「あっ、わかった、おじいさん。はらペコになってから、ごはんをたべればなんでもおいしく、たべられるんですね」
「そうだよ、三ちゃん、さあ、おかあさんの待っているお家へ帰ろうね」
「でも、なにか山は、どこなのおじいさん」
おじいさんは、三ちゃんの頭をなでながらいいました。
「三ちゃん、ごめんね。なにか山って、そんな山はないのだよ」
「えっ、なにか山はないの、でも、おじいさん、ぼくが、なにかあ、って呼んだとき、どこかの山で、同じように、なにかあ、と、いったのは、あれは、なあに」
「三ちゃん、あれは、なにか山ではなくて、山びこというんだよ。三ちゃんの声が、むこうの山にあたって、こちらへ、はねかえって聞こえてくるのだよ。だから、いくらおっかけていっても、なにか山はないのだよ」
このことを聞いて、三ちゃんが、前の方を見ると、山はいくつもかさなっています。
うしろの方を、ふりむくと、ここへくるまでに越えてきた、たくさんの山が見えました。
「ぼくの家は、あの山のむこうにあるんだ。よし、ぼくは、おかあさんを呼んでみよう」
三ちゃんは、大きな声で呼びました。
「おかあさーん」
すると、山びこが、
「おかあさーん」
と、答えました。
三ちゃんは、また、おじいさんと雲に乗って、おかあさんの待っている家の方へ、とんでいきました。