ヨシノ島とキラス
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- このおはなしの目当て
- 宇宙時代、機械万能の時代であっても、人間の愛情をもととした人間関係の大切なことを考えさせたい。
- 読み聞かせのポイント
- キラスは、万能の機械を持っているかわいらしい星の子、マコトちゃん、ユミコちゃんは、あどけない島の子、島の人はすべて善人、ただ一人オオヤマ夫人だけが船主の権力を示すボスです。それぞれの人物のイメージを生かすよう、言葉の表現に心をくばってください。
おはなし
ヨシノ島という島があります。
このヨシノ島には、家が二十軒ほどあります。ここのおとうさんたちは、みんな、タイヨウ丸という船に乗って、遠くの海で、さかなをつかまえています。だから、ヨシノ島に残っているのは、おかあさんたちと、子どもだけです。
このヨシノ島の、マコトちゃんと、ユミコちゃんは、とても仲良しでした。
ある日のことです。
マコトちゃんと、ユミコちゃんは、浜に出て、びっくりしました。
白い砂浜に、男の子が立って、空を見ています。
「あっ、ユミコちゃん、あの子は、だれだろう」
「ほんとねえ、だれかしら」
二人は、その子どものそばへ、走っていきました。
「あんた、どこの子?」
ユミコちゃんが、きいてもみても、男の子は、にっこり笑っているだけです。
「きみ、なんという名前?」
マコトちゃんが、きいたら、
「ぼく、キラスというんです」
と、答えました。
「キラスっていうの、変な名前だなあ」
マコトちゃんも、ユミコちゃんも、こんな名前は、はじめてきく名前なので、おかしくなってしまいました。
「マコトちゃん、ユミコちゃん……」
「おや、ぼくたちの名前を、知ってるの」
「はい、知っています……。マコトちゃん、ユミコちゃん、これから、ぼくの友だちに、なってください」
と、いって、キラスは、マコトちゃんとユミコちゃんに、握手をしました。
このキラスが、世界のめずらしいお話をしてくれました。
アメリカの話、ヨーロッパの話、アフリカの話……。なんでも知っています。
マコトちゃんも、ユミコちゃんも、感心してしまいました。
「キラスくん。きみは、えらいねえ……。どうしてそんなに、なんでも知ってるの?」
「キラスさんは、えらいわねえ……。キラスさんのお家は、どこなの?」
でも、キラスは、にっこり笑っていて、そのことは、教えてくれません。
「ぼくねえ、このヨシノ島に、ずっと住んでみたい。ここは、すばらしい島だものね」
なるほど、キラスのいうように、このヨシノ島は、すばらしい島でした。
この島には、いつでも、美しい花が、いっぱい咲いています。小鳥は毎日、美しい声でさえずっています。島のまわりの海は、きれいに澄みきって、さまざまな色をしたさかなが、いっぱい泳いでいます。
このすばらしいヨシノ島に、キラスは、住んでみたいといっているのです。
マコトちゃんと、ユミコちゃんは、キラスをつれて、オオヤマさんの家へ行きました。
ヨシノ島のおとうさんたちは、みんな、このオオヤマさんの家の、タイヨウ丸に乗っています。
オオヤマさんの家は、大きな家で、部屋の数もたくさんあります。そんな大きな家に、オオヤマさんは、オオヤマさんのおばさんと、お手伝いさんだけで、住んでいるのです。
オオヤマさんのおばさんは、玄関で、マコトちゃん、ユミコちゃん、キラスを見ると、とても、いやな顔をしました。
「なにさ、このおばさんに、お願いすること、あるというのは……」
マコトちゃんもユミコちゃんも、一生けんめいに、おばさんにたのみました。
「おばさん、この子は、キラスくんというんだよ。なんでも知っているえらい子だよ。この島に住みたいというから、オオヤマさんの家においてやってよ」
「おばさん、わたしたちの家は、せまいでしょう。だから、この広いオオヤマさんの家に、おいてやってください」
ところが、オオヤマさんのおばさんは、とても、こわい顔をして、しかりつけました。
「おだまりっ。わたしは、子どもは大きらいだ……。うるさいから、さっさと、出ていきな」
マコトちゃんもユミコちゃんも、ガッカリして、キラスといっしょに、浜にもどってきました。
浜の上に、三人は腰をおろしました。
「マコトちゃん、ユミコちゃん、ありがとう……。ぼく、もう帰るよ」
「キラスくん、帰るって、どこに帰るの?」
「キラスくん、ここは島なのよ。お船もないのに帰れないわ」
キラスは、ニコニコ笑いました。
「あ、ほんとだ……。船がなくては帰れないね……。じゃ、ぼく、ここで海を見ていることにしよう」
マコトちゃんは、浜から腰をあげました。
「ぼくねえ、家から、おやつを持ってきてあげるよ。キラスくん、待っていてね」
ユミコちゃんも、立ちあがりました。
「わたしも、おかあさんに、おやつをもらってくるわ。待っててね」
「マコトちゃん、ユミコちゃん、ありがとう……。ぼく、マコトちゃん、ユミコちゃんが大すきです……。ほんとに、ありがとう」
キラスは、ピョコンと、おじぎをしました。
マコトちゃんと、ユミコちゃんは、家の方へ走っていきました。
それから、しばらくして、マコトちゃんも、ユミコちゃんも、おやつを持って浜に来ました。
ところが、どうしたことでしょう。キラスはいません。
「あっ、キラスくんは、どうしたんだろう」
「マコトちゃん、キラスさんが、いないわねえ」
そのときです。
空のむこうへ “ヒューン” と音をたてて、飛んでいくものがあります。
「あっ、ユミコちゃん。ほら、ごらん。あれはなんだろう」
「ああ、マコトちゃん。あれは、あれは、宇宙船よ……。わたし、知っている。あれは宇宙船よ」
「そうだ、宇宙船だ……。ああ、ユミコちゃん。あのキラスくんは、宇宙船でここへ来て、また宇宙船で帰っていく……。うん、あれは星の子だ」
あの、なんでも知っている、物知りのかしこいキラスは、星の子どもでした。
それから、しばらくした、ある晩のことです。
ヨシノ島では、大変なことがおこりました。
オオヤマさんの家では、おかあさんたちが、みんな集まって、大さわぎをしています。
「ねえ、オオヤマさんの奥さん、タイヨウ丸は、どこで、わからなくなって、しまったのかねえ」
「オオヤマさんの奥さん、タイヨウ丸は、沈んでしまったのかねえ」
「わたしたちの、とうちゃんたちは、生きているんでしょうねえ」
おかあさんたちは、まっさおな顔をして、心配してさわいでいます。
オオヤマさんのおばさんは、大きな声で、みんなをしかりつけました。
「やかましいっ、おだまり……。さっき、いったじゃないの。タイヨウ丸は、海のどこかで、大きな台風にあって、SOS——船があぶない、助けてくれ、という電信をうったまま、どこへいってしまったのか、わからないんだよ」
そのことばを聞いて、おかあさんたちは、またさわぎだしました。
「じゃ、警察にたのんで、さがしてもらったら、どうでしょう……。日本でわからなければ、世界中の人たちにたのんで、タイヨウ丸を、さがしてもらったらどうでしょう」
すると、また、オオヤマさんのおばさんは、みんなをしかるようにいいました・
「やかましいっ、おだまり……。いくらさがしても、わからなかったと、いったではないか……。タイヨウ丸は、沈んでしまったにきまってる。船の人はみんな死んだと思うより、しかたがない」
「えっ、うちのおとうちゃんたちは、死んでしまったの」
オオヤマさんの家に集まっている、ヨシノ島のおかあさんたちは、みんな大きな声をあげて、泣きだしました。
ちょうどそのころ、マコトちゃんの家には、ユミコちゃんが、来ていました。
「マコトちゃん、おかあさんたち、オオヤマさんの家から、まだ帰らないわねえ」
「うん、タイヨウ丸は、もうだめだよ。ぼくのおとうさんも、ユミコちゃんのおとうさんも、船といっしょに沈んで、きっと、死んでしまったんだよ」
マコトちゃんも、ユミコちゃんも、悲しくなって泣きだしました。
そのときです。外の方で声がしました。
「マコトちゃん、ユミコちゃん」
「おや、だあれ」
「ぼく、キラスです」
キラスときいて、マコトちゃんも、ユミコちゃんも、びっくりして、戸をあけました。
中にはいってきたのは、宇宙服を着た、星の子キラスでした。
「マコトちゃん、ユミコちゃん、タイヨウ丸が大変でしたね」
「キラスくん、ぼくのおとうさんは、もう死んでしまったよ」
「キラスさん、わたしのおとうさんも、死んでしまったの」
キラスは、宇宙服を着て、つっ立ったままでいいました。
「マコトちゃん、ユミコちゃん。泣かないでください……。タイヨウ丸は沈んだのではありません。おとうさんたちは、みんな生きています。南の海の、マルカ島という、小さな無人島——人の住んでいない島にいます」
マコトちゃんも、ユミコちゃんも、とびあがって喜びました。
「ああ、よかった。ぼくたちのおとうさんは生きている」
「まあ、キラスさんは、どうしてタイヨウ丸のことを、知っているの」
「ぼくは星の子です。宇宙船にあるホチョウキを耳にあてると、どんな小さな音でも、きこえてきます。ボウエンメガネを目にあてると、どんな遠くのものでも、見えるのです……。ぼくの宇宙船は、どんなものよりも、速いですからね」
マコトちゃんは、
「キラスくん、ぼく、これからオオヤマさんの家へ行って、おかあさんたちに、タイヨウ丸の人たちは、マルカ島で、みんな生きていることを、知らせてくるからね……。ここで待っていてね」
と、いって家を出ていきました。
マコトちゃんの家では、ユミコちゃんとキラスだけに、なってしまいました。ユミコちゃんは、
「キラスさん。キラスさんは、この島に、住んでみたいといったでしょう……。ね、ずっと、ここにいてね」
と、いいました。するとキラスは、きっぱりいいました。
「ぼくは星へ帰ります。ぼくは、この美しいヨシノ島で、マコトちゃんや、ユミコちゃんのような、心のやさしい子どもと、いっしょに暮らせたら、とても、しあわせだな、と思ったんです……。でも、オオヤマさんのおばさんの、おこったおそろしい顔を見たら、また、星へ帰りたくなったんです」
「それで、キラスさんは、また星へ帰るのですか」
「ぼく、これから、南の島のマルカ島へ行ってきます……。タイヨウ丸の人たちに、もうすぐ、助けてもらえるから、がんばってくださいって、はげましてきます」
それから、しばらくして、キラスの乗っている宇宙船は、 “ヒューン” と、音をたてて、星のいっぱいかがやいている空を飛んでいきました。