せなかの落書き

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このおはなしの目当て
「ひとをのろわば穴二つ」という言葉がある。悪者トンタが、自分の考えた悪知恵のために、すいか泥棒としてつかまる痛快さを味あわせたい。
読み聞かせのポイント
トンタもブタローちゃんも、同じようにせなかに落書されますが、ストーリーが明確になるように注意してください。夕立の場面は、迫力をつけて読んでやってください。

おはなし

 ブー、ブー、ブー。ブタの住んでいる、ブタノ村がありました。
 このごろ、ブタノ村の畑のすいかが、毎日のように盗まれています。
 すいかを盗むのは、だれでしょう。それは、この村のなまけ者で、いじわるの、うそつきのトンタでした。
 「エ、へ、へ、おもしろい、おもしろい。このトンタが、すいかを盗んでいることを知っている者は、ひとりもいない……。エ、へ、へ、これからも、すいかを盗んで、たべてやるぞ」
 ブタのトンタは、ほんとに悪者でした。
 ところが、そのトンタが、ギョッとして、おどろいたのです。
 それは、おまわりさんのいる警察署の掲示板の、大きなはり紙に、こんなことが書いてありました。

 このごろ、村の畑のすいかを盗む悪者がいます。この悪者を知っていたら警察へ知らせてください。知らせてくれた人には、ほうびをあげます。    警察署

 トンタは、このはり紙を読んで、びっくりしました。
 「これは大変なことになったぞ。もしも、わしがすいかを盗んだということを、知っている者がいると、わしは、おまわりさんにつかまるぞ。これは大変なことになった。どうしよう、どうしよう」

 トンタは、森のそばまで来ました。
 すると、どこからか、いびきが聞こえてきます。
 「グー、グー、グー」
 「おや、あの音は、いびきだな。だれが寝ているのだろう」
 トンタが、いびきのする方へ近づいて見ると、大きな木の下に、横になって眠っているのは、子ブタのブタロウちゃんでした。
 「おや、これは、子ブタのブタロウだ……。ブタロウが、こんなところに眠ってらあ」
 ブタロウちゃんは、トンタが、そばに来たことも知らずに、眠りつづけています。
 トンタは、ブタロウちゃんのそばで、なにか、じっと考えていました。そのうちに、トンタは、ニタリと笑いました。
 「エ、へ、へ、よいことを思いついた……。この子ブタのブタロウを、すいかどろぼうにしてやろう。ブタロウを、すいかどろぼうにしてしまえば、わしは、おまわりさんに、つかまらなくてもすむぞ……。これは、よいことを思いついた」
 悪者のトンタは、急いで家から、筆とすみを持ってきました。
 「エ、へ、へ、ブタロウは、よく眠っているぞ……。さあ、ブタロウのせなかに、字を書いてやろう」
 トンタは、筆の先にすみをつけると、眠っているブタロウちゃんのせなかに、
 “この ブタ すいかどろぼう”
 と、落書をしました。
 「エ、へ、へ……。このブタ、すいかどろぼう。このブタ、すいかどろぼう……。うまく書けたな。これなら、だれが見ても、ブタロウがすいかを盗んだと思うにちがいない。これで、ブタロウが、おまわりさんにつかまって、わしは助かるというものだ……。エ、へ、へ、へ、まず、まず、これで一安心」
 トンタも、むこうの木のかげで、ゴロリと横になると、寝てしまいました。

 しばらくすると、その森へやってきたのは、ブタの、ブウスケおじさんでした。ブウスケおじさんは、ブタロウちゃんの、寝ているそばにきました。
 「おや、ここに寝ているのは、ブタロウちゃんだ……。よく眠っているな……。おや、おや、ブタロウちゃんのせなかに、字が書いてある」
 ブウスケおじさんは、ブタロウちゃんの、せなかの落書を読んで、びっくりしました。
 「なに、なに………。このブタ、すいかどろぼう。このブタ、すいかどろぼう……。これは、おどろいた。このかわいいブタロウちゃんが、すいかを盗んだのか」
 それから、ブウスケおじさんは、むこうの木のかげに寝ている、トンタを見つけました。
 「おや、あれはトンタだ……。悪者のトンタだ……。トンタもよく眠っていらあ……。おや、トンタのそばに、筆とすみがおいてある」
 ブウスケおじさんは、トンタのそばに来ました。

 「はて、こんなところに、筆とすみがおいてある……。それに、あのブタロウちゃんのせなかに、落書がしてある。あっ、わかった。このトンタが、ブタロウちゃんのせなかに落書をしたのだな」
 ブウスケおじさんは、しばらく考えていましたが、
 「あっ、よいことがある。わしが、このトンタのせなかに、落書をしてやるぞ」
 と、いって筆にすみをつけました。
 ブウスケおじさんは、眠っている悪者のトンタのせなかに、字を書きました。
 “この ブタ すいかどろぼう”
 トンタは、せなかに “このブタ、すいかどろぼう” と、落書されたことも知らずに「グー、グー」眠りつづけています。ブウスケおじさんは、
「これでよし。さあ、わしは、いそがしいから帰ることにしよう」
 と、いって、家へ帰っていきました。
 それから、しばらくして、悪者のトンタが目をさましました。
 「ウ、ウーン、よく眠った……。おや、子ブタのブタロウは、せなかに落書されたことも知らずに、まだよく眠っているわ……。ブタロウが、目をさまして道へ出ていくと、だれかが、あの落書を読むぞ……。このブタ、すいかどろぼう……。すいかどろぼうは、ブタロウだったのかというので、おまわりさんに、つかまってしまう……。それで、すいかを盗んだこのトンタさまは、つかまらずにすむ……。エ、へ、へ。どれ、帰ることにしよう」
 悪者のトンタは、じぶんのせなかに、落書されていることも知らずに、帰っていきました。

 子ブタのブタロウちゃんは、じぶんのせなかに、トンタが落書をしたことも、トンタが、プウスケおじさんに、落書されたことも知らずに、眠りつづけていました。
 しばらくして、大変なことになりました。空が、にわかに曇って、あたりが暗くなると、ものすごい雨が、ザーッと降り出して、タ立になりました。
 ピカピカ、いなびかりがして、ゴロゴロ、かみなりが鳴り出しました。
 “ビカピカ、ゴロゴロ、ザーッ”
 子ブタのブタロウちゃんは、びっくりしてとび起きました。
 「わあ、タ立だあ、かみなりだぁ」
 ブタロウちゃんは、家へ帰ろうとして、森からかけ出すと、道へ出ました。
 “ビカビカ、ゴロゴロ、ザーッ”
 「わあ、タ立だあ、かみなりだあ」
 ブタロウちゃんが、道を走っているうちに、ものすごい雨で、せなかの落書……トンタの書いた “このブタ、すいかどろぼう” という字が、みんな雨にあたって、きれいに消えてしまいました。

 やがて、タ立はやみました。すっかりよい天気になって、お日さまが照りつけました。家にいた悪者のトンタは、外に出ました。
 「やあ、雨はやんだ、よい天気になった……。あの子ブタのブタロウは、どうしたかな……。エ、へ、へ、きっと今ごろは、せなかの落書――わしが書いた “このブタ、すいかどろぼう”
 というのを、だれかに見つかって、おまわりさんに、つかまっているだろうな……。よし、これから、おまわりさんのいる警察署へ行って、見てやろう」悪者のトンタは、じぶんのせなかに
 “このブタ、すいかどろぼう” と、書かれていることも知らずに、おまわりさんのいる警察署の方へ歩いていきました。

 ちょうどそのころ、警察署のおまわりさんは、タ立のあと、村を一回りして、警察署へ帰ってきました。そして、警察署の入り口に、トンタが立っているのを見つけました。
 トンタは、おまわりさんが、うしろから来たことも知らずに、警察署の中を、のぞきこんでいました。
 「エ、へ、へ、子ブタのブタロウは、すいかどろぼうといわれて、どこかにしばりつけられているだろうな……。おや、変だぞ。ブタロウは見えないぞ」
 キョロ、キョ口と、トンタが警察署の中を、のぞいていたときです。おまわりさんは、トンタのせなかの落書を見つけて、びっくりしました。
 「おや、トンタのせなかに落書がしてあるぞ……。なに、なに……。このブタ、すいかどろぼう。このブタ、すいかどろぼう……。あ、なるほど、すいかどろぼうは、この悪者のトンタだったのか」
 おまわりさんは、トンタをうしろから、だきしめて、つかまえてしまいました。

 「こら、すいかどろぼうのトンタ。もう逃がしはせぬぞ」
 「へえ、おまわりさん。すいかどろぼうは、わしではありません
 「なにをいうのか、このトンタめ。おまえのせなかに “このブタ、すいかどろぼう” と、書いてあるわ」
 とうとう、悪者のトンタは、おまわりさんにつかまりました。
 おまわりさんは、ブウスケおじさんや、子ブタのブタロウちゃんも呼んで、よく調べてみました。
 村の畑のすいかを盗んでいたのは、トンタであったことが、はっきりわかったというお話です。