赤ざると青ざる
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- このおはなしの目当て
- 子どもたちも、家庭環境とか、生活様式のちがいから理解できず、仲よしにならぬことがある。しかし、人間同志のふれあいで理解できることのあることを知らせたい。
- 読み聞かせのポイント
- この話に登場するものは、神さまと、赤ざる、青ざるです。赤ざると青ざるが区別のつくように語ってください。最後に、冬がきて、赤ざると青ざるが、からだをくっつけあうところは、静かな口調ですすめて、神さまの出現に進めていただきたいと思います。
おはなし
むかし、むかしのお話です。
神さまのそばには、赤ざると青ざるという、さるがいつもついていました。
赤ざるの毛は赤い色、青ざるの毛は青い色です。赤ざると青ざるは、なかが悪くて、いつもけんかばかりしていました。
ある日のことです。赤ざると青ざるは、いつものようにけんかをしていました。
「赤毛、赤ざる、赤んぼう。あかがついてる、きたないよう」
「なんだって、青毛、青ざる、青びょうたん。青い顔した弱虫やあい」
「こらっ、赤、あか、あかの赤ざる」
「なんだい、青、あお、あおの青ざる」
とうとう、つかみあいのけんかになってしまいました。
ちょうどそこへ、神さまがいらっしゃいました。
「これ、これ、赤ざる、青ざる。またけんかをしているのか。さあ、けんかは、やめなさい」
赤ざると青ざるは、びっくりして、けんかをやめました。
「これ、赤ざるに青ざる。お前たちは、どうして、そんなに、けんかばかりするのかね」
「神さま。この赤ざるめが、悪いのでございます」
「いいえ、神さま。青ざるめが、いけないのでございます」
「なんだって、この赤ざる」
「なに、この青ざる」
「もう、かんべんならん、さあこい」
「よし、まけるものか」
神さまの前で、また、つかみあいの、けんかになりました。
神さまは、ほんとにこまったようなお顔をなさいました。
「これ、これ、またけんかか。やめろ、やめないか」
赤ざると青ざるは、ようやく、けんかをやめました。
神さまは、赤ざると青ざるを、にらみつけながら、おっしゃいました。
「赤ざる、青ざる。お前たちは、わしの前で、いつもけんかをしている。もう、ゆるすことはできない。お前たちは、遠くへいってしまいなさい」
赤ざると青ざるは、びっくりしました。
「神さま、この赤ざるだけは、ゆるしてください」
「いや、ならぬ」
「神さま、この青ざるだけは、おゆるしください」
「いや、ならぬ、それっ」
神さまは、赤ざるのおしりをポン。青ざるのおしりもポンとたたきました。と、どうでしょう。
赤ざるも、青ざるも、ヒューンと、音をたてて、空をとんでいきました。
しばらくして、赤ざると青ざるは、スーッと下におりました。
赤ざると青ざるは、おどろきました。そこは、今までにきたことのない、山の上でした。
「おや、青ざる。ここは山の上だよ」
「ほんとだ。赤ざる。ここは高い山の上だ。わあ、たくさんの木が、はえている」
「おい、おい、青ざる。この山の木には、葉っぱが、ついていないよ」
「ほんとだ赤ざる。葉っぱは見えないな。この山には、だれがいるんだろう。大きな声で呼んでみよう」
赤ざると青ざるは、声をそろえて、呼んでみました。
「おーい、この山、だれか、いるかーい」
赤ざると青ざるは、なんべんも呼んでみました。
「だれかおったら、出てこーい」
でも、なんにも出てきませんでした。
さあ、この山に、だれもいないことがわかると、赤ざると青ざるは、また、けんかをはじめました。
「こら、赤ざる。この山の王さまは、この青ざるさまだ」
「なにっ、青ざる。王さまは、この赤ざるだ」
「こらっ、赤毛、赤ざる、赤んぼう。あかがついてる、きたないよう」
「なんだって、青毛、青ざる、青びょうたん。青い顔した弱虫やあい」
この山の上でも、赤ざると青ざるは、いつも、けんかばかりしていました。
そのうちに、山の木には、青い葉っぱが、いっぱい出てきました。春から夏になったのです。
さあ、山が葉っぱで、一めんに青くなると、青ざるがよろこびました。
「これは、これは、山が青くなってしまった。これは神さまが、この青ざるを王さまにするために、山を青くしてくださったのにちがいない」
そこで、青ざるは、赤ざるの前で、いばっていいました。
「こら、赤ざる。見ろ、山が青くなってしまった。これは神さまが、この青ざるさまに、山の王さまになれということなんだ。さあ、きょうからは、この青ざるさまが王さまで、赤ざるのお前は、けらいだぞ」
「青ざるのけらいなんて、いやだなあ」
「こら、赤ざる」
「なんだい、青ざる」
「こら、赤ざる。この青ざる王さまにむかって、そんなことばづかいを、してはいけない。なんでも、ハイ、ハイ、と返事をするんだ。わかったか赤ざる」
「はーい」
「こら、赤ざる」
「はーい」
「ヘヘン、こら、赤ざる」
「はーい」
とうとう、青ざるが、山の王さまになって、赤ざるが、けらいになってしまいました。
それから、夏がすぎて、秋になりました。
秋になると、今まで青かった山の葉っぱが、だんだん、赤くなってきました。
山が一めんに、赤い葉っぱで赤くなると、赤ざるが大よろこびです。
「これは、これは、山が赤くなってしまった。これは、神さまが、この山の王さまは、青ざるではいけないから、赤ざるさまがかわって、王さまになるように、山を赤くして、くださったのにちがいない」
そこで、赤ざるは青ざるの前で、いばっていいました。
「こら、青ざる。見ろ、山が赤くなってしまった。これは、神さまが、この赤ざるさまに、王さまになれということなんだ。さあ、きょうからは、この赤ざるさまが王さまで、青ざるのお前は、けらいだぞ」
「赤ざるのけらいなんて、いやだなあ」
「こら、青ざる」
「なんだ、赤ざる」
「こら、青ざる。この赤ざる王さまにむかって、そんなことばづかいをしてはいけない。なんでも、ハイ、ハイ、と返事をするんだ。わかったか青ざる」
「はーい」
「こら、青ざる」
「はーい」
「ヘヘン、こら、青ざる」
「はーい」
こんどは、赤ざるが山の王さまになって、青ざるがけらいになってしまいました。
それから、しばらくすると、ヒュー、ヒュー、つめたい風が吹いて、冬がやってきました。
赤い葉っぱは、カラカラ、落ちてしまって、山の木には、葉は一枚も、なくなってしまいました。
赤ざるも青ざるも、ブルブル、ふるえてきました。
「おう、寒い、寒い」
赤ざると青ざるは、寒くて寒くて、けんかをする元気も、なくなってしまいました。
「青ざるくん、寒いねえ。寒いから、もっとそばへおいでよ」
「赤ざるくん、寒いねえ。では、もっと、くっつくよ」
赤ざると青ざるは、からだを、くっつけあっているうちに、あたたかくなってきました。
こうして、からだを、くっつけあっているうちに、だんだん、仲もよくなりました。
「青ざるくん、いままで、けんかばかりして、ごめんね」
「赤ざるくん、ぼくこそごめんね。もう、仲よしになろうね」
そこへ、お日さまが、ポカポカ、照ってきました。
赤ざると青ざるは、からだを、くっつけあって、いつまでも仲よく、日なたぼっこをしていました。
ちょうどそのときです。
「赤ざるよ、青ざるよ」
と、呼ぶものがありました。赤ざると青ざるが、ヒョイ、と、うしろをふりむいてみると、神さまが立って、いらっしゃいました。
「あっ、神さま」
「おお、赤ざる、青ざる。なかよしになれて、よかったのう。さあ、これからいつまでも、なかよしでいるようにしてあげよう」
神さまは、赤ざると青ざるのからだを、しっかりくっつけて、そのせなかをなでてくれました。
と、どうでしょう。赤ざるも、青ざるも、だんだん、毛の色が変わって、茶色になってしまいました。
「あっ、神さま、この青ざるの青い毛が、茶色になってしまいました」
「おや、わたくしも、赤い毛が、茶色になってしまいました」
赤ざるも青ざるも、おどろいていましたが、神さまは、にっこりお笑いになりました。
「おお、よかった、よかった。お前たちがけんかをしたのは、毛の色が、ちがっていたからだ。でも、なかよしになったから、おなじ色になったのだ。もうこれなら、いつまでたっても、けんかをしないだろう」
おなじ毛の色になった赤ざると青ざるは、いつまでも、いつまでも、なかよく暮らしました。