お金の神さま

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このおはなしの目当て
お金持ちといって、おごりたかぶっていても、働かずして浪費すれば、たちまちなくなってしまう。そのみじめさを知らせたい。
読み聞かせのポイント
ブタキチの間抜けな様子、コンタの悪がしこい態度、どん欲で貧しいほかの動物たち、この三者を、くっきり描いて話していただきたい。たとえば、ブタキチは、ことばづかいを間のびさせるとか、コンタは、ブタキチに、こびへつらう態度で語ってください。札たばを投げる場面は、リズミカルに、興味をもたせてください。

おはなし

 山おくに、動物のたくさんすんでいる村がありました。
 「ワン、ワン、ワン」犬もいます。「ニャオ、ニャオ、ニャオ」ねこもいます。さるも、きつねも、たぬきもみんないましたが、その中で、いちばんの金持ちはブー、ブー、ブーのぶたのブタキチでした。
 ブタキチの家は、とても大きな家でした。お金も、どっさりあります。けれども、ブタキチは、なまけ者で、働くことを知りませんでした。

 ある日のことです。
ブタキチは、お金を、どっさり持って、街を歩いておりました。
ブタキチは、菓子屋の前で、足をとめました。

「お菓子屋さん、お菓子をください」
「へえ、いらっしゃい。これは、これはブタキチさん、なにをさしあげましょうか」
「うん、おまんじゅうが、ほしいんだ。だけど、すこしずつ買うのは、めんどうだ。そこにあるおまんじゅうを千円ください」
「へえ、千円も買ってくださるんですか、それは、ありがとうございます」
 おまんじゅうを買ったブタキチは、こんどは帽子屋さんの店へきました。
「帽子屋さん、帽子をください」
「へい、いらっしゃい。これはブタキチさん、どの帽子をさしあげましょうか」
「とびっきり上等をください。そら、そこにある一万円の帽子をください」
「へえ、一万円の帽子を買ってくださるんですか、それは、ありがとうございます」
 新しい帽子をかぶったブタキチは、こんどは、洋服屋さんの店へきました。
「洋服屋さん、洋服をください」
「へえ、いらっしゃい。これはブタキチさん、どの洋服にしましょうか」
「とびっきり上等をください。そら、そこにある十万円の洋服をください」
「へえ、十万円の洋服を買ってくださるんですか、それは、ありがとうございます」

 ブタキチは、お金持ちであることと、ぜいたくをすることが、じまんでした。
 コン、コン、コン、きつねのコンタは、ブタキチが、お金をつかって、ぜいたくをするのを見て笑っていました。
「よし、あのブタキチを、うんと、ひどいめにあわせて、こまらせてやろう」
 コンタは、どうして、ブタキチを、こまらせてやろうかと、いろいろ考えました。

 ある日のことです。コンタはブタキチの家へやってきました。
「ブタキチさんは、お金持ちで、しあわせなことですね。どうでしょう、ブタキチさん、そんなにお金持ちならば、もっとおもしろいあそびをしてみませんか」
「ほう、コンタくん、おもしろいあそびって、どんなことかね」
「それはねえブタキチさん、おたくの二かいのまどからね、お金を投げてやるんです」
「ほう、二かいのまどから、お金を投げたら、どんなことになるのかね」
「ブタキチさん、おもしろいことになりますよ。みんな、あわててひろうから、きっとおもしろいですよ。そればかりか、ブタキチさんは、村の動物たちから、神さまのようにたいせつにされますよ」
「ほう、動物たちが、あわててお金をひろう、これはおもしろいだろうな。ぼくが神さまのようにたいせつにされる、それはゆかいだ。では、コンタくん、さっそく、家の二かいからお金を投げることにしよう」
 ブタキチの家の二かいに上がったブタキチとコンタは、まどから見おろしました。
 コンタは大きなメガホンを口にあてました。

「みなさーん、いらっしゃい、いらっしゃい。さあさ、どなたもいらっしゃい。お金のほしいかたは、みんな、みんな、いらっしゃい」
 さあ、きました、きました。「ワン、ワン、ワン」犬もきました。「ニャオ、ニャオ、ニャオ」ねこもきました。いたちも、たぬきも、みんなやってきました。
 二かいのまどで、コンタが、またメガホンに口をあてました。
「さあ、さあ、いらっしゃい。ここにいらっしゃるブタキチさんは、みんなの知っているとおり大金持ちで、お金の神さまじゃ。このお金の神さまブタキチさんが、お金を投げてくださるのじゃ、さあ、みんな、ありがたく、頭をさげえ」
 みんないっしょに、「へえー」頭をさげました。
 ブタキチは、うれしくなってきました。
「ほう、わしは、お金の神さまになったのだ。うれしいなあ」
 コンタは、またメガホンに口をあてました。
「では、みんな、頭をあげえ。では、これから、お金の神さまが、お金を投げてくださるのだぞ。みんないっしょうけんめいにひろうのじゃ。……では、お金の神さま、お金を投げてやってください」

 ブタキチは、ほんとうに神さまのような、まじめな顔をして、札たばを、にぎりました。
 まどの下では、たくさんの動物が、さわぎたてました。
「わあ、神さま、ブタキチさん、こっちへ投げてくださいよう」
「神さま、神さま、こっちの方へ。ねがいます」
 ブタキチは、にぎった札たばを、高くあげました。
「わあー、わあー」
 また、みんなが、さわぎたてました。

 ブタキチは、いよいよ、札たばをサーッと投げました。百円札、千円札、一万円札が、ちょうど天から降ってくるように、十枚、百枚、千枚、ヒラ、ヒラ、ヒラ、札は風に吹かれて、葉っぱが散るように、まどの下に、ちらばっていきました。
 下にいる動物たちは
「わあ、ほんとに、お金だ。ほんとのお札だ。それっ」
 みんな、このお札を、うばいあって、大さわぎです。
「ワン、ワン、ワン、その百円札、この犬が先に手をつけたんだ。返せ、返せ」
「ニャオ、ニャオ、ニャオ、この百円札、わたしのもの、ねこのものだよ」
「モー、モー、モー、その千円札、この牛が、先に手をつけたんだ」
「ヒーン、ヒーン、ヒン、この千円札、馬のものだよ」
 あちらでも、こちらでも、
「そのお金は、ぼくのものだ」
「いや、いや、わしのものだ」
 とうとう、つかみあいをするもの、なぐりあいをするもの、けとばすもの、それは、それは、たいへんなさわぎをして、みんなが、たくさんのお札をひろいました。

 きつねのコンタは、また、メガホンを口にあてました。
「みんな、たくさんのお札をひろったな。これは、お金の神さま、ブタキチさんのおかげだ。では、またあす、このブタキチさんの二かいのまどから、お金を投げていただくことにしよう。よいか、みんな、このお金の神さま、ブタキチさんに、ていねいに頭をさげるのだ。……では、頭をさげえ」
 みんな「へへえ」と頭をさげました。
 お札をひろった動物たちは、みんな、よろこんで家へ帰っていきました。
 ブタキチは、うれしくてなりません。
「これは、おもしろい、コンタくん、あすもまた、お金を投げてやろう。……ぼくは、お金の神さまになったのだからな」

 ブタキチは、その次の日も、その次の日も、つづけて、二かいのまどから、お金を投げてやりました。
 村の動物たちは、ブタキチにあうと、みんな頭をさげるようになりました。
「ブタキチさん、こんにちは、おや、よい時計を持っていますね」
「うん、わしは、お金の神さまだからな」
「おや、よい靴ですね」
「うん、わしは、お金の神さまだからな」
「これはまた、よいオーバーですね」
「うん、わしは、お金の神さまだからな」

 ところが、たいへんなことになりました。
 ブタキチは、お金持ちだけれども、これは、みんな、おとうさんからもらったお金です。なまけ者のブタキチは働くこともしないで、二かいのまどから、お金を投げてよろこんでいるうちに、もう、すっかりお金がなくなってしまいました。
「おや、こまった。もうお金は、なくなってしまった。さあ、どうしよう」
 そこへ、きつねのコンタがきました。
「さあ、お金の神さま、ブタキチさん、きょうもまた、二かいのまどから、お金を投げてやりましょう」
「うん、コンタくん、それがねえ……」
「えっ、ブタキチさん、それがどうしたのです。もう外には、たくさんの動物がお金を投げてくださるのを待っていますよ」
「うん、コンタくん、お金を投げてやりたいのだけれど、もう、お金はすこしもないんだよ」
 これを聞いて、コンタが、急にいばりだしました。

「こら、ぶたのブタキチ、もうお金がないのか、こら、ブタキチ、今までみんなが、お前に頭をさげたのは、ブタキチがえらいからではないぞ。……ブタキチ、お金持ちだといっていばっている者は、お金がなくなれば、もうそれで、いばることはできないのだぞ。わかったか」
 コンタは、サッサと、ブタキチの家から出ていってしまいました。
 なんにも知らない、ほかの動物たちは、ブタキチの家の外で、さわいでいました。
「お金の神さま、ブタキチさん、早くお金を投げてくださいよう」
といってね。