駅のストーブ

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このおはなしの目当て
石炭をたいて蒸気をつくる、その力で汽車は走る。石炭をたいて、ストーブは部屋をあたためる。働く者は、それぞれ使命のあることを知らせたい。また、蒸気に関するやさしい科学的な知識を与えたい。
読み聞かせのポイント
ちょっと科学的なにおいがありますので、かたぐるしく思わせないようにしてください。それには、動物の子どもたちの会話に変化をつけて、雰囲気をやわらげてください。また、この駅は、都会に近いにぎやかな駅ではなく、山里にあるさびれた駅を想像しながら語ってください。

おはなし

 山の下に「幼稚園前」という 小さな汽車の駅がありました。
 シャッシャッポッポ、シャッシャッポッポ、汽車が着くと、
「幼稚園前、幼稚園前、五分間停車、五分間停車。降りる方がすんでから、お乗りください。幼稚園のお子さんは、ころばないように気をつけてください……幼稚園前、幼稚園前」
 汽車のお客さまは、ワン、ワン、ワン、イヌや、ニャオ、ニャオ、ニャオ、ネコや、メー、メー、メー、ヤギ、そのほかの動物たちです。
 幼稚園の子どもも、みんな動物で、汽車から降りると、なかよく、幼稚園に向かって歩いていきます。

 ヒュー、ヒュー、ヒュー、つめたい風が吹いて、チラ、チラ、チラ、雪が降って、寒い、寒い、冬がやってきました。
「幼稚園前」の駅長さんは、ロバの駅長さんです。
 ロバの駅長さんは、お客が汽車を待つ、待合室へやってきました。
「おお、寒い、寒い、こんなに寒くても、幼稚園の子どもは、元気で、幼稚園へ通っている……でも、この待合室は寒いからな……そうだ、幼稚園の子どもたちのために、この部屋にストーブを入れてやろう」
 ロバの駅長さんは、待合室のまん中に、大きなストーブをおきました。
 それから、大きなテツビンに水を入れて、ストーブの上におきました。

「さあ、このストーブに、火をつけよう」
 ロバの駅長さんは、ストーブに火をつけると、石炭を、どんどん、入れました。
 ストーブの中は、ゴー、ゴー、音をたててよく燃えました。
 そのうちに、テツビンの湯が、ジーン と 煮えたってきました。
 ロバの駅長さんは、
「これでよし、よく燃えついた。ストーブがはいって、幼稚園の子どもたちは、よろこぶだろうな」
 と、言いながら、ストーブにあたっていました。

 ちょうどそのときです。
「ポー、シャッシャッポッポ、シャッシャッポッポ」
 汽車の音がしてきました。
 ロバの駅長さんは、あわてて、プラットホームに出ると、
「幼稚園前、幼稚園前」
 と、呼びましたが、降りる客は一人もありません。
「ピリ、ピリ、ピリー」
 駅長さんの笛の合図で、また、汽車は走っていきました。
 ロバの駅長さんは、
「ああ、ここは、幼稚園前だからな、こんなお昼には、お客はありませんわい」
 ひとりごとを、いいながら、お部屋へいってしまいました。

 駅の待合室は、シーンと 静かになりました。
 ストーブの上の 大きなテツビンだけが、ジーンと 煮えたっていました。
 そのときです。
「ストーブくん、ストーブくん」
 呼ぶものがありました。それは、ストーブの上のテツビンでした。
「ストーブくん、つまらないねえ」
「おや、テツビンくん、なにがつまらないの」
「ストーブくん、こんな さびしい駅の待合室で、ジーッと しているなんて、つまらないねえ」
「おや、テツビンくん、じゃ、どうしてほしいの」
「うん、ぼくたちも、汽車のように 走りまわってみたいよ」
「だって、テツビンくん、きみはテツビンだし、ぼくは、ストーブだもの、汽車のようには、走れっこないよ」
 「チエッ、つまらないなあ、ぼくはテツビンだから走れないのか、つまらないなあ」

 ちょうどそのころ、駅の外では、ヒュー、ヒュー、つめたい風が吹いて、雪も、ひどく降ってきました。
 その雪の中を幼稚園の子どもたちが、走ってきます。

 「大寒、小寒、雪こんこ、降ってきた
  ワン、ワン、ニャオ、ニャオ
  メー、メー、メー」

 イヌがきます。ネコもきます。ヤギもブタも、みんな一しょに、走ってきます。
 そのあとから、幼稚園の園長先生、クマノ先生もついてきました。
「おお、寒い、寒い」
 みんな、駅の待合室に、かけこんできました。

 子どもたちは、外の寒さにくらべて、待合室は、たいへん暖かいのに、びっくりしました。
「ワン、ワン、わあ、暖かいなあ」
「ニャオ、ニャオ、おう。暖かい」
「メー、メー、やあ、暖かだあ」
 クマノ園長先生も、子どもたちも、みんな、ストーブのまわりに集まりました。
「ワン、ワン、ワン、園長先生、これなあに」
「これはね、ストーブ、ストーブですよ」
「ニャーオ、ニャオ、えっ、スープが、スープが、このテツビンに はいっているの?」
「ちがいます、ストーブなの」
「メー、メー、ストーブですか」
「そう、ストーブです。ほら、この中に、石炭を入れて、どんどん たくんですよ。すると、ほら、こんなに部屋の中が、暖かくなるんですよ」
「ワン、ワン、ワン、園長先生、このテツビンの中に、なにが、はいっているの」
「このテツビンの中には、スープは、はいっていませんよ。この中には、お湯が煮えたっているんです……ほら、ジーンって、湯気がたっているでしょう。湯気をたてないと、みんなが、風邪をひいて、のどを痛くしますからね。駅長さんが、テツビンを のせてくださったのですよ」
「ふーん、ロバの駅長さん、いい おじさんだなあ」
 幼稚園の子どもたちは、みんな、うれしそうに、ストーブで、からだを暖めていました。

 幼稚園の子どもたちの、寒そうな顔が、だんだん、赤くなって、とても暖かそうに見えました。
「ワン、ワン、ワン、園長先生」
「なあに、イヌくん」
「先生、ストーブって、石炭をたくの」
「そうですよ」
「それなら、汽車と同じだあ、汽車だって石炭をたくよ」
「そうねえ、汽車も、石炭をたきますねえ」
園長先生は、イヌの頭をなでました。

「ニャーオ、ニャオ、園長先生、このテツビンの中に、お湯が はいっているの」
「そうですよ」
「それなら、汽車と同じだあ、汽車だって、機関車に石炭たいて、お湯をわかして、蒸気をつくるんだ。その蒸気の力で、ピー、ピーって、汽笛を鳴らして走っていくんだ。いつか、汽車の車掌さんが、そういってたよ」
 ちょうど、そのときです。ジーン、ジーンと、煮えたっていた、ストーブの上の、テツビンが、ピ、ピー と、音をたてました。
 こんどは、園長先生は、ねこの頭をなでながらいいました。
「ほら、ごらんなさい。このテツビンは汽車と同じように、ピ、ピーって、音をたてているでしょう。ほら、白い湯気が、シューっと、出ている。これが、いま、ネコくんのいっていた蒸気ですよ」
 幼稚園の子どもたちは、目を丸くして、ストーブの上のテツビンを見ました。
 そのうち、テツビンのふたが、ブカ、ブカ、動き出しました。

「ほら、ごらんなさい。重いテツビンのふたが、蒸気の力で、ブカ、ブカ、動き出しましたよ。ね、汽車だって、機関車に石炭をたいて、お湯をわかして、蒸気をつくるんですよ。その蒸気の力で、汽車が走っていくんです」
 幼稚園の子どもたちは、みんな、びっくりしたような顔をしました。
「わあ、このストーブとテツビンは、汽車と同じだあ」
 すると、ヤギが、いいました。
「メー、メー、だめ、だめ、このストーブとテツビンは、汽車のようには走れないよう」
 こんどは、園長先生は、ヤギの頭をなでました。
「ヤギちゃん、それはね、みんな役目があるんです。ほら、汽車は、お客をのせて走ってくれるし、ストーブは、この待合室を暖かくしてくれますね。みんな、それぞれ役目があるからですよ」
 すると、幼稚園の子どもたちは、みんな、にこにこ、して、いいました。
「ああ、暖かくなった。ストーブは、待合室を暖めて、ぼくたちを、よろこばせてくれる。このストーブは、よい役目を持っているんだなあ」

 しばらくすると、シャッシャッポッポ、シャッシャッポッポ、汽車がきました。
「幼稚園前、幼稚園前、五分間停車……さあ、幼稚園の子どもさんは、あわてないように、お乗りください」
 幼稚園の子どもはみんな汽車に乗りました。
 ロバの駅長さんが、手をふりました。
「発車します。幼稚園の子どもさん、またあした、元気でいらっしゃい。では、発車します」
 ピリ、ピリ、ピリー、駅長さんが笛を鳴らすと、記者は、ポー、シャッシャッポッポ、走っていきました。

 幼稚園の子どもたちが汽車に乗っていってしまうと、クマノ園長先生も、幼稚園に帰ってしまいました。
 駅の待合室は、また、シーン と 静かになりました。
 ただ、ストーブの上のテツビンだけが、ジーン と 音をたて 煮えたっていました。そのテツビンが、ストーブに話しかけました。
「ストーブくん、ストーブくん」
「おや、テツビンくん、なあに」
「ストーブくん、ぼく、テツビンでよかったよ。湯気をたてて、部屋を暖めて、子どもたちが風邪をひかないようにする よい役目を持っているんだもの」
「うん、テツビンくん、ぼくも、ストーブでよかったよ。幼稚園の子どもたち、あんなに、暖かいといって、よろこんでくれるんだもの」
「ストーブくん、ぼくたち、この駅の待合室を うんと 暖かくして、みんなをよろこばしてやろうね」
 ストーブの火は、ゴー と、音をたてて燃えました。テツビンも、湯気を、シュッ、シュッ、出して煮えたっていました。