鐘がなる

動画制作中

このおはなしの目当て
ひとりでは、できない仕事も、多くのものが協力すれば、できることのたくさんあることを知らせたい。
読み聞かせのポイント
コンキチ、ポンタ、クマゾウがおもちをたべる前と、たべた後とでは、声の調子を変えてください。空腹で大根を抜いている時は弱い声で、おもちをたべさせてもらった後は、喜びに満ちた表情、元気な声で語ってください。最後に鐘が鳴る、その鐘の音の「ゴーン」と、いうところは、余韻のあるように、ひびかせてください。

おはなし

 山おくに、古い 古い お寺がありました。
 その寺の近くに、キツネのコンキチと、タヌキのポンタ、クマのクマゾウが住んでいました。

 いよいよ お正月は明日という 大みそかの日です。
 お寺のおしょうさまは、お寺の部屋で、おもちをやいていました。
 ちょうどそのころ、お寺の裏の畑に こっそりやってきたのは、キツネのコンキチでした。
「チェッ、おしょうさまは、おもちをやいてたべている。ぼくは、たべるもちがない、畑の大根をたべてやろう」
 コンキチが 畑の大根をぬいていると、そこへ、そっと、やってきたのは、タヌキのポンタでした。
「チェッ、おしょうさまは、おもちをやいてたべている。ぼくは、たべるもちがない、畑の大根をたべてやろう」
 このとき、ポンタは、コンキチを見て おどろきました。

「おや、コンキチ、コンキチも畑の大根たべてるな」
「シー、静かに……ポンタ、おしょうさまに見つかったらたいへんだ……静かに、静かに」
 コンキチとポンタは、大根をぬいてたべていました。
 そこへ、ノソリ、ノソリ、やってきたのは、クマのクマゾウでした。
「チェッ、おしょうさまは、おもちをやいてたべている。ぼくは、たべるもちがない、畑の大根をたべてやる」
 このとき、クマゾウは、コンキチとポンタを見つけおどろきました。
「おや、きみたちも、畑の大根、たべてるのか」
「シー、静かに……クマゾウ、おしょうさまに見つかったら、たいへんではないか」

 キツネのコンキチ、タヌキのポンタ、クマのクマゾウが、畑で大根をぬいてたべていると、畑のすみの木の枝で、ジーッと、それを見ていたのはカラスでした。
「おや、おや、コンキチに、ポンタに、クマゾウが、お寺の畑の大根をぬいている……よし、おしょうさまに知らせてやろう」
 カラスは、大きな声を、はりあげました。
「カーォ、カーォ、カーォ、おしょうさま……コンキチとねえ、ポンタとねえ、クマゾウがねえ」
 おどろいたのは、コンキチ、ポンタ、クマゾウでした。
「こら、こら、カラス、やめろ、やめないか、やめないと、あとで、ひどい目にあわせるぞ」
「カーォ、カーォ、カーォ、コンキチとねえ、ポンタとねえ、クマゾウがねえ」
「こら、カラス、やめろ」
「カーォ、カーォ、カーォ、コンキチとねえ、ポンタとねえ、クマゾウがねえ……畑の大根をぬいてたべていますよう」
 お部屋の中で、おもちをやいてたべていたおしょうさまは、いそいで裏の畑へ出てみました。

「わあっ、おしょうさまだ。それ、逃げろ」
 コンキチ、ポンタ、クマゾウは、あわてて逃げようとしました。
 それでも、おしょうさまは、にこにこ 笑っていました。
「さあ、みんな、逃げなくてもよい。こっちへおいで」
 コンキチも、ポンタも、クマゾウも、おしょうさまの やさしい顔に安心して、そばにやってきました。
 コンキチは、おしょうさまの前で、ペコン、ペコン、頭をさげました。

「おしょうさま、ごめんなさい、ポンタも、クマゾウも、ぼくも、たべるものがなんにもなくて、腹ぺこです……それで、大根を……」
「ほう、それで 大根をぬいてたべていたのかい……腹ぺこでは、かわいそうだのう……でもな、ひとの物をだまって取れば、どろぼうだよ。どろぼうしては、いけないねえ……よし、よし、おなかがすいているのなら、いいものをたべさせてやろう」
「えっ、いいものって……」
「いいものというのは、おもちだよ。ちょうどいま、おもちをやいているからな、おまえたちにも たべさせてやろう」
 おもちを たべさせてもらえると聞いて、コンキチも、ポンタも、クマゾウも、大よろこびです。
「わあ、おもち、おもち、うれしいなあ」
 コンキチも、ポンタも、クマゾウも、おしょうさまのあとに、ついていきました。

 お寺の部屋にくると、みんな火鉢の前に、ぎょうぎよく すわりました。
 コンキチは、鼻を、クン クン、いわせながら、
「おもちって、いい においだなあ」
 ポンタも
「わあ、おいしそうな、おもちだあ」
 クマゾウも
「早く、おもちをたべたいなあ」
 みんな、みんな、大よろこびです。
 おしょうさまは、目を細くして、にこにこしながらいいました。
「そうら、おもちがやけた……さあ、さあ、おあがり」
 火鉢の金網の上に、ならべてあったおもちが、みんな、うまくやけました。
 コンキチ、ポンタ、クマゾウは、うれしくて、うれしくて、たまりません。
「わあ、おもちがやけた……では、おしょうさま、いただきまあす」
 みんな、ほおばって、おもちをたべはじめました。

 やがて、おもちをたべてしまうと、キツネのコンキチが、太いしっぽをふりながらいいました。
「おしょうさま、ぼくねえ、おもちを たべたら、ほら、こんなに力が出てきましたよ」
 タヌキのポンタも、腹をたたいてみせました。
「ポンポコポンのポンポコポン……ぼくは腹がでっかくなって、すごい力もちになっちゃったあ」
 すると、クマのクマゾウは、むっくり立ちあがって、太い足で床を、トン、トン、ふみならしながらいいました。
「いや、いや、一ばん力もちはぼくだ、クマのクマゾウだ……その力もちのぼくが おもちをたべたから、力もちの、力もちの、大力もちになっちゃったあ」
 コンキチ、ポンタ、クマゾウは、力もちのじまんをして、やかましくさわぎたてました。
 おしょうさまは、さっきから、にっこり笑って、このようすを見ていました。
「ほう、みんなが、そんなに力もちになったのなら、今夜は、大切な仕事を手つだってもらおうかの」
 コンキチ、ポンタ、クマゾウは、大切な仕事ときいて、びっくりして、顔を見あわせていました。
 おしょうさんは、
「なあ、みんな、明日はお正月だ。それで、今夜は、除夜の鐘をつくのだよ……ほら、お寺の鐘つき堂にある あのつり鐘を、ゴーン、ゴーン と、つきならすのだ……おまえたちが力じまんしている その強い力で、鐘をついてもらおう」
 と、いって、お寺の門のそばにある鐘つき堂の方を、ゆびさしました。

 さあ、明日はお正月という 大みそかの晩です。
 お寺の鐘つき堂の 大きなつり鐘の下には、おしょうさんと、コンキチ、ポンタ、クマゾウが立っていました。
「さあ、コンキチから、この鐘をついてごらん」
 おしょうさまにいわれて、コンキチは、しゅ木のつなを、しっかりにぎりました。
「そーら、そら、そらっ」
 コンキチは、力一ぱいつきましたが、鐘は小さな音を「カン」と、出しただけで、「ゴーン」と、いう、ひびきのある、よい音は出ませんでした。
「さあ、こんどは、ポンタ」
 ポンタも
「そーら、そら、そらっ」
 ついてみましたが、これも小さな音で「カン」、よい音は出ません。
「さあ、こんどは、クマゾウ」
 クマゾウは、
「よし、ぼくは、一ばん力もちの クマのクマゾウだ。きっと、よい音を出してみせるぞ……そーら、そら、そらっ」
 と、ついてみましたが、小さな音で「カン」。これもだめでした。
 おしょうさまは、
「だめじゃのう……みんな 力が強いと、いばっていても、この鐘をつくことさえできない。さあ、わしが、かわってついてみよう」
 と、いって、しゅ木のつなをにぎると、
「そーら、そら、そらっ」
 力一ぱい鐘をつきました。
 鐘は、大きな音をたてて「ゴーン」と、ひびきました。
 おしょうさまは、つづけて鐘をつきました。
「ゴーン、ゴーン、ゴーン」

「さあ、こんどは、コンキチ、ポンタ、クマゾウ、一しょに、このしゅ木のつなをにぎって、力をあわせて、ついてごらん」
 おしょうさまは、しゅ木のつなを、コンキチ、ポンタ、クマゾウに、にぎらせました。
「さあ、みんな、力をあわせて……」
 コンキチ、ポンタ、クマゾウは、しゅ木のつなをしっかりにぎって、力をこめました。
「そーら、そら、そらっ」
 鐘をつくと、どうでしょう。鐘は、大きな音をたてて、ひびいていきました。
「ゴーン、ゴーン、ゴーン」
 おしょうさまは、とても、よろこびました。
「おう、鳴る、鳴る、鐘が鳴る……どうじゃ、一人ではだめであっても、みんなが力をあわせると、大きな力になる。さあ、力をあわせて、ついてくれ」
 コンキチと、ポンタ、クマゾウは、力をあわせて、鐘をつきました。
 除夜の鐘は……、
百、百一、百二、百三……
そら、百六、百七、百八……
百と八つ……百八。
 遠くの方まで、ひびいていきました。