小さな池のカエル
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- このおはなしの目当て
- 幼いときのともだちは、いつまでたっても、仲良く助けあえるようになってほしい。そんな願いを込めて童話にしました。
- 読み聞かせのポイント
- オタマジャクシがかえるになってからの、メダカとの対話には、かえるの威張っている態度を誇張してください。それから、からすにおそわれようとしたときの、かえるの恐怖、それをかばっている亀が、からすに語りかけるときの、とぼけた様子など、工夫して語っていただきたいと思います。
おはなし
小さな、小さな池が、ありました。その池には、小さなメダカと、小さなオタマジャクシが、仲よく住んでいました。
ある日のことです。この小さなメダカが、オタマジャクシを見て、びっくりしました。
「オタマジャクシさん。まあ、あなたは……」
「メダカさん。なにをそんなに、おどろいているの」
「オタマジャクシさん。あなたのからだに、足がはえてきましたね。もうすぐ、カエルになるのね……。カエルになっても、仲よしで、いましょうね」
「メダカさん。だいじょうぶ。メダカさんとは、いつまでも、仲よしだよ」
メダカとオタマジャクシは、それは、それは、仲のよい友だちでした。
やがて、オタマジャクシのしっぽがとれて、「ゲロ、ゲロ、ゲロ」。とうとうカエルになりました。小さな、小さな、それは小さなカエルになりました。
ある日のことです。この小さなカエルは、池の中の、蓮の葉っぱの上に乗って、いばり出しました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。こらっ、メダカ」
メダカは、びっくりしました。
「おや、オタマジャクシさん。いや、いや。オタマ、オタマ、オタマジャクシではない、カエルさん」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。こらっ、メダカ」
「カエルさん。オタマジャクシのときは、言葉もやさしかったのに、カエルさんになったら、乱暴な言葉になりましたね」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。こらっ、メダカ。このカエルは、えらいのだぞ。池の中を、泳ぐこともできるし、おかの上を歩くこともできるんだ」
「でもカエルさん。わたしと、いつまでも、お友だちでいましょうね」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。メダカと、池の中だけで遊ぶのは、いやだよう」
小さなカエルは、大きな蓮の葉っぱの上を、歩いたり、飛んだりして、みせました。
その時です。池のそばの松の木に、「カーォ、カーォ、カーォ」カラスが一羽、飛んできて、枝にとまりました。
カラスは、蓮の葉っぱの上にいるカエルを見つけました。
「おや、蓮の葉に、カエルが乗っている。よし、つかまえてやろう」
カラスはカエルに、飛びかかって来ました。
カエルは、びっくりして、池の中へ、飛びこんでしまいました。
カエルは、池の中の、蓮の葉っぱのかげから、頭だけ出しました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。ああ、おどろいた。ああ、あれはカラスだな……。やぁい、カァラス、カラス。カラスなんかにゃ、つかまらないよ。くやしかったら、ここまでおいで。ゲロ、ゲロ、ゲロ」
「よし、あのカエルのやつ。いつかは、つかまえてやるぞ」
カラスは、松の木の枝にもどると、この小さなカエルを、どうしてつかまえようかと、考えました。そのうち、カラスは、よいことを思いつきました。
「カーォ、カーォ、カーォ。カエルくん。カエルくん。きみは、ほんとにえらいねえ。水の中を泳ぐことができるし、おかの上で、飛んだり歩いたり、できるものね。そんなにえらいカエルくんが、こんな小さな池にいては、気のどくだよ。もっと大きな池へ、いきなさい」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。なにっ、これより大きな池が、あるのかい」
「あるとも、あるとも。ずっとむこうにねえ。この池より、もっと、もっと大きな池があってねえ。そこには亀もいるんだよ」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。亀、亀がいるってえ。カラス。亀って、なんだい」
「カエルくん。カエルくん。亀はねえ、大きなこうらというものを、せなかにしょってるけれど、それでも平気で、水の中を泳ぐことができるし、おかの上だって、歩くことが、できるんだぜ」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。へえ、そんな亀、一度、見たいなあ」
「カエルくん、見てきたらいいよ。そら、ずっとむこうの、大きな池だよ。では、さよなら。カーォ」
カラスは、どこかへ、飛んでいってしまいました。
ずっとむこうのほうに、大きな池があることや、亀がいることを聞いて、びっくりした小さなカエルは、そのことをメダカに話しました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。こらっ、メダカ。えらくなったこのカエルが、こんな小さな池で、こんな小さなメダカと、いっしょにいるのは、つまらないからな。亀のいる大きな池へ、いくことにするよ」
メダカは、目をまんまるくして、いいました。
「と、とんでもない。カエルさん、とちゅうで、カラスにつかまったら、たいへんですよ」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。だいじょうぶだよ。カラスは、どこかへ飛んでいって、しまったからな」
「でも、カエルさん。その大きな池には、恐ろしいものが、いるかも知れませんよ」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。だいじょうぶ。ぼくは、もうりっぱなカエルになったんだ。おまえのような、小さなメダカのいる、こんな小さな池は、つまらなくなったんだ。さあ、大きな池へ、でかけることにしよう」
小さなカエルは、ノソリ、ノソリ、おかの上に上がると、ピョン、ピョン、ピョン、はねだしました。
小さなカエルは、とうとう、大きな池のそばへ来ました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。わあ、大きな池だ。よし、これから、この池に、飛びこんでやろう……。そうら、そらっ……」
ジャボーン、小さなカエルは、池の中へ飛びこみました。そして、池の中を泳ぎながら、亀をさがしました。
「亀、亀、どこにいるんだ。早く出てこい。ゲロ、ゲロ、ゲロ」
そこへ、大きなさかなが、泳いできました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。うわあ、大きなさかなだ。こらっ。おまえは、なんというさかなだ」
「なあんだ、小さなカエルが、いばってらあ……。ぼくは、鯉だ、鯉だ、力のつよい鯉だぞ」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。へえ、鯉って大きいんだなあ……。でも、鯉、鯉は、いくら大きくても、おかの上を歩くことが、できないだろう。ぼくは水の中も泳ぐことができるし、おかの上だって、飛んだり歩いたりすることが、できるんだぞ……。どうだ。おどろいたか」
「おや、小さなカエルのくせに、いばってらあ。では、こうしてやる」
鯉は、カエルのおなかを、口で、コツン、コツン、と、つつきました。
「わあっ、痛い」
小さなカエルは、びっくりして、そばの蓮の葉っぱに、飛び上がりました。
「おお、痛い、痛い……。大きな池には、大きなさかながいる。こんな池にいたら、どんなに恐ろしいめに、あうかわからない。さあ、もとの小さな池に、帰ることにしよう。でも、困った。鯉につつかれたおなかが痛くて、むこうの岸まで、飛ぶことが、できないよう……」
小さなカエルは、水の中に飛びこめば、恐ろしい鯉がいるし、むこうの岸へは、おなかが痛くて、飛ぶことができません。とうとう蓮の葉っぱの上で、泣きだしてしまいました。
そのときです。池の中から、声が聞こえました。
「カエルくん、カエルくん……」
「あっ、だれか、ぼくを呼んでいる。だれだ」
「カエルくん。ぼくは亀だよ、亀ですよ」
池の中から、ポッカリ浮かんだのは、大きな亀でした。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。わあっ、これが亀かい。大きな亀だあ……。せなかに、しょっているのが、こうらだな……。亀さん。ぼくねえ、亀さんを見たくて、むこうの小さな池から、来たんだよ。だけど、鯉におなかを、つつかれて、痛くて、痛くて、歩くことも、飛ぶことも、できないんだよ」
「カエルくん。それはかわいそうに。では、ぼくのせなかーーこのこうらの上に、乗ったらいいよ」
小さなカエルは、亀のこうらの上に、乗せてもらいました。
小さなカエルを、せなかに乗せた亀は、池を泳いで、むこうの岸に渡りました。
それから、ヨッチラ、ヨッチラ、小さな池の方へ向かって、歩いていきました。
ちょうどそのときです。むこうの空から、いつかのカラスが、飛んで来ました。これを見て、小さなカエルは、びっくりしました。
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。亀さん、亀さん。むこうの空から、カラスが、飛んで来ましたよ」
「それはたいへんだ。見つかったら、カラスに、つかまってしまうよ」
「ゲロ、ゲロ、ゲロ。ああ、ぼく、どうしよう……」
小さなカエルは、こわくなって、ガタ、ガタ、ふるえてきました。
亀は、四本の足をこうらの外へ、ぐっとのばして、立ちました。
「さあ、カエルくん。ぼくのからだの下に、かくれなさい。早く、早く」
小さなカエルは、亀の下にかくれました。そこへ、カラスが飛んで来ました。
「カーォ、カーォ。亀くん。亀くん。きみのところへ、小さなカエルが、いかなかったかねえ」
「小さなカエルですって。知りませんねえ」
「カーォ、カーォ。亀くん、亀くん。今ね、むこうの小さな池に、いってみたけれど、小さなカエルが、いなくなったのだよ。だから、きっと、亀くんのところへ、来たと思うんだけどねえ。小さなカエルは、来なかったのかねえ」
「カラスさん。そんな小さなカエルは、知りませんねえ。ぼくのところへは、来ませんでしたよ」
「カーォ、カーォ。どうしたんだろうなあ。あの小さなカエル、あまりいばっていたから、つかまえて、つれていこうと、思ったんだけどなあ。どこへいったんだろう……。じゃあ、亀くん。さようなら」
カラスは、どこかへ、飛んでいってしまいました。