著者:出村孝雄について

心のあかりをどの子にも

子どもには、どの子にも、
宝石のように光輝く心がある。
子どもたちを差別して扱うのは罪悪である。

(出村孝雄・著「島野先生物語」より)

出村孝雄の写真出村孝雄

出村孝雄プロフィール

1908年6月4日、愛知県篠島に生まれる。愛知県第一師範を卒業、教職に10年、その間久留島武彦、安倍季雄、小池長氏たちの知遇を得て童話の創作に、実演に、放送に活躍した。そして「児童を愛するものは社会を教化せよ」との信念のもとに童話家であるとともに社会教育家として活動。2001年7月24日、93歳で死去。生前は、中日新聞社会教育講師、全国童話人協会顧問、名古屋童話協会会長、育ての会主幹、日本児童文芸家協会会員などを務めた。

賞歴

1975年
第15回 久留島武彦文化賞 受賞
1996年
第35回 児童文化功労賞 受賞

著書

出村孝雄創作童話シリーズ
〜読んで聞かせる楽しい童話〜

1967年
No.1 山びこ(精華堂刊)
1968年
No.2 お山はみどり(精華堂刊)
1968年
No.3 ふしぎな卵(精華堂刊)
1969年
No.4. 金のすず(精華堂刊)
1977年
島っ子物語(中日新聞本社刊)
1981年
読んで聞かせる童話集 てんぐ風(中日新聞本社刊)
1981年
読んで聞かせる童話集 島の王さま(中日新聞本社刊)
1988年
島野先生物語(中日新聞本社刊)
1996年
心に生きている話(中日新聞本社刊)

出村孝雄の童話

奉仕童話行脚から始まった、口演童話。
「子どもたちに触れるような気持ちで読み聞かせて」

〈童話本〉といえば美しい挿絵のはいった児童文芸本がイメージされます。しかし出村孝雄の童話はそれとは異なる趣向のもの…語って聞かせる〈口演童話〉でした。

口演童話は明治の中頃から、日本のアンデルセンと呼ばれた久留島武彦らによって拡がり発展してゆきました。ひとが生きてゆくうえで大切な心得や教えを、楽しいおはなしに仕立てて、子どもたちに語って聞かせる教育的な目的をもった話芸として確立していったものです。
出村孝雄は(略歴にあるよう)師範学校を出て教職に就くかたわら、口演童話を語り始めます。はじめは「奉仕童話行脚」と称して、小学校に飛び込むように訪れ、無料で童話を語る活動に熱中したといいます。そして教職に10年ほど勤め、その後は口演童話一筋の道を進みます。戦前(太平洋戦争)は中国、満州まで出かけ、戦時中は 陸軍報道班員の宣撫活動としてインドネシアで童話を語りました。
戦後、民間放送が始まると、電波に乗って「一人のおはなし」はたくさんの人に一度に届く時代がやってきました。そして出村孝雄は日本で最初に放送を開始した民放局CBC(名古屋)で、週1回、レギュラーで創作童話を口演放送することになります。童話のレギュラー番組は当時としても珍しいものでした。一気に作品群・レパートリーが増加し、この時の放送分はのちに、創作童話カセット「はなしのおもちゃばこ」全6巻としてまとめられます(※)。
楽しいおはなしを子どもたちに語り聞かせる口演童話は、一貫して子どもたちの健やかな成長に資するという児童文化活動としてとらえられてきました(自身を童話作家というよりも〈童話家〉と呼んでいました)。そこで、生で話して聞かせるだけでなく、活動としての拡がりを持たせたいということから、創作童話のいくつかが出版されることになります。ただこの場合も〈読んで聞かせる〉ということに拘っています。物語とともに、読んで聞かせる人がいて子どもがいる・その状況があって口演童話としての出自が生かされると考えていたようです。
出村孝雄の文中には、句読点が多いのに気付きます。「ここで一息入れて」と、話のリズムに従った表記です。
「そこにある言葉・文節の一区切りに語り手自身を載せて、子どもたちに触れるような気持ちで読み聞かせてやってほしい」と、語っています。(息子/出村祥雄)

※このサイトの出村孝雄の読み聞かせ音源は、このカセットの音源を使用しています。

出村孝雄の、読み聞かせ

毎日違う「ももたろう」。
5分のときも、30分のときも。

祖父、出村孝雄は童話作家であり、そして子どもたちの心を惹きつける優れた噺家でもありました。童話はそのあらすじはあるものの、いつもその場の子どもたちの表情や反応を感じながら豊かにバリエーションを加えながら話す。最初は別のことに気を取られていた子どもも、数分後にはその声に集中して、知らずにおはなしに引き込まれていく。
目の前に登場人物が見えるかのような臨場感。笑いどころをしっかりとつくって子どもも一体となっておはなしの中に飛び込んでいくような、そんな錯覚を覚える読み聞かせは、祖父のライフワークとも言える活動でした。
そうそう、おやすみ前に「おじいちゃん、おはなししして!」とせがむと、「よしじゃあ、ももたろうのおはなしをしよう」。って、いつも「ももたろう」。でも、その内容は同じであることはなく、ある時は猿やキジの描写が綿密で、ある時は鬼との戦いが激しく…それは5分のときも、30分のときも。ものがたりが「おしまい」を迎えると、わたしの心の中ではそのおはなしが息づいていて、いろんな想像を頭にかけめぐらせながら眠りに落ちていったものです。
ここに、幼稚園での読み語りの音声が残っています。子どもたちがどんどんおはなしに惹き込まれていく様子、笑い声、登場人物への掛け声、一緒に呪文を唱えたり、まあ微笑ましいこと!子どもが笑顔でいられることは、わたしたち大人のの希望ともなるものです。いくつもの読み聞かせ童話と合わせて、ぜひ、お聞きください。(孫/出村亜佐子)

  • 出村孝雄
    幼稚園での講演のようす
    「てんぐ風」

  • 出村孝雄
    幼稚園での講演のようす
    「へっとこもっこー」

協力:育ての会/学校法人織田学園ずいよう幼稚園